化学辞典 第2版 「チオシアン酸(塩)」の解説
チオシアン酸(塩)
チオシアンサンエン
thiocyanic acid(thiocyanate)
HSCN[CAS 463-56-9]とその塩.IUPACの許す慣用名.体系名は構造式[C(N)(SH)]に従ってニトリドスルファニド炭素.ロダン化物,ロダン酸塩,チオシアン化物,硫シアン酸(塩),硫シアン化物,硫青酸(塩)など,多数の通俗名がある.天然にタマネギなどに遊離酸として存在し,エステル(チオシアン酸エステル)や塩も生体中に存在が認められる.異性体,イソチオシアン酸(塩)HNCS=[C(NH)S](IUPAC体系名イミドスルフィド炭素)が存在する.酸:HSCN(59.09).KSCNとKHSO4の混合物を,減圧水素中で加熱して,発生する気体を液体窒素で冷却して集める.酸の水溶液は,NH4SCN水溶液に希硫酸を加え,減圧蒸留して水に捕集する.水に可溶.水溶液は20 ℃ までは比較的安定で,pKa -0.9の強酸である.
塩:NH4塩は,CS2とNH3の反応でつくる.アルカリ金属塩[CAS 540-72-7:NaSCN][CAS 333-20-0:KSCN]は,アンモニウム塩を水酸化ナトリウムで処理すると得られる.ほかの金属塩はアルカリ金属塩と各金属塩の水溶液中の複分解で得られる.アルカリ金属やアンモニウムの塩など水溶性のものはイオン結晶で,SCN-を含む.不溶性の塩は共有結合性か,配位結合性のものが多い.たとえば,AgⅠ塩(チオシアン酸銀)は,…SCN-Ag-NCS-Ag…型の鎖状構造,PbⅡ塩[CAS 592-87-0]はPbに8個のSCNのS原子4個と,N原子4個が配位している架橋構造,CuⅠ塩[CAS 18223-42-2]は,CuにSCNのS原子3個とN原子1個が四面体型四配位している.配位錯体:[SCN]-(配位子名チオシアナト)を配位子とする多くの配位化合物がある.N-配位錯体(チオシアナト-N錯体)と,S-配位錯体(チオシアナト-S錯体)に区別される.一般に,ソフト([別用語参照]HSAB原理)な金属ではS-配位となり([PtⅡ(SCN)4]2-,[HgⅡ(SCN)4]2- など),ハードな金属ではN-配位となる([CoⅡ(NCS)4]2-,[FeⅢ(NCS)6]3- など).[Fe(NCS)6]3- は Fe3+ の検出に使われる赤色錯イオンである.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報