日本大百科全書(ニッポニカ) 「テナール石」の意味・わかりやすい解説
テナール石
てなーるせき
thenardite
ナトリウムの無水硫酸塩鉱物。メタテナール石metathenardite(δ(デルタ)-Na2[SO4])と同質異像関係にあり、その低温相にあたる。転移点271℃、高温相は三方晶系であるが、1905年に西インド諸島東部マルティニーク島ペレーPelée火山の噴気孔から報告されて以来発見がないので、疑問視する説もある。和名の「ボウ硝(芒硝)」は薬品名としても用いられた名称。芒は「すすき」のことで、「すすき」の穂のようにふわふわした外観をもち、「硝」は(水に溶けて)姿が消える石を意味する。半乾燥~乾燥気候地域の土壌表面や塩湖の周囲の堆積(たいせき)物として生成され、また日本では黒鉱鉱床に伴われる石膏(せっこう)とともに産するミラビル石mirabilite(Na2[SO4]・10H2O)の脱水産物(脱水温度33℃)として生成される。多く白色針状あるいは粉末状。また冬季に海岸地域で岩石の表面に着生する、いわゆる表成鉱物efflorescent mineralとして産する。千葉県館山(たてやま)市那古船形(なごふなかた)では岩塩、石膏などと堆積岩の表面に着生する。命名はフランスの化学者テナールLouis Jacques Thénard(1777―1857)にちなむ。
[加藤 昭 2017年12月12日]