イタリア・ルネサンス期の哲学者。南イタリアのコゼンツァに生まれる。ミラノで叔父からラテン語とギリシア語を習い、ついでパドバで自然学、哲学、医学を学んで、1535年に学位を得る。その後徐々に自己の体系を築き、主著『その固有な原理からみた事物の本性について』を書く。1565年ローマで最初の2巻が、1586年ナポリで全6巻が出版された。
自分以前に自然を研究したものは、その理論と自然所与との矛盾、理論相互間の対立からもわかるように、むだな時間と苦労を費やしたとみる。それは、哲学者たちが「世界の原理を理性で求めている」と自負しながら、「幻想で仕事をし、神の作品を変形している」からだとする。とくにアリストテレスに反対し、感覚に基づいて自然をありのままに追うだけで、人間の知はその任務の頂点に達することができると考える。感覚によれば、太陽その他の天体は熱をもち、土は冷を生むことから、「熱」と「冷」を第一の原理とし、土すなわち物質に内在するこの「熱」と「冷」という二つの原理によって、人間(認識、倫理)を含めたあらゆる事柄を説明しようとした。このような立場にたちながらも、キリスト教信仰に矛盾を感じることなく、精神的実体としての人間の魂や神の存在を認めた。この自然主義的な考え方は、ブルーノやカンパネッラなどの思想に大きな影響を与えた。
[大谷啓治]
ルネサンス期イタリアの代表的自然哲学者。南イタリアのコゼンツァに生まれたが,幼いときに故郷を後にしてナポリに移り,さらにベネチア,パドバで勉学の後,ベネディクト派修道院で冥想生活をつづける。コゼンツァの大司教に推薦されたがこれを断り,同地のアカデミーに腰を落ちつけて研究活動に没頭した。主著《固有の原理からみた自然の本性について》(1565)は,スコラ的アリストテレス主義に対立して,感覚的経験にもとづく自然観を展開し,近代経験主義の先駆者となった。すなわち,あらゆる存在の根源は〈物体のかたまり〉であり,それに内在する〈熱〉と〈冷〉とによって運動を生ずる。精神活動もその延長上にある。この考えは後世しばしば唯物論の先駆として評価されたが,彼の説く根源物質は有機的生命的なものであり,むしろ汎心論に近く,その点でルネサンス自然哲学の典型をなすものである。
執筆者:清水 純一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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