テングタケ(その他表記)Amanita pantherina (Fr.) Secr.

改訂新版 世界大百科事典 「テングタケ」の意味・わかりやすい解説

テングタケ
Amanita pantherina (Fr.) Secr.

担子菌類ハラタケ目テングタケ科の毒キノコ。高さ10~25cm,かさの直径も10~25cmになり大型。かさははじめ半球状,のち平らに開き,表面は灰褐色暗褐色,周辺には放射状のみぞ線があり,全面に白色のかさぶた状のいぼをのせる。ひだは白,茎に離生し,茎は円柱状でじょうぶ,白色で上から3分の1ほどのところに膜質のつばがある。茎の根もとはふくらみ,つぼ破片環状にならんで残る。胞子は広楕円形,10~12μm×7~9μm。夏~秋にマツ林に多いが,広葉樹林にも生える。北半球の温帯以北に広く分布し,日本全土にふつうにみられる。これに似ておもにカンバ林に生える赤いテングタケは毒キノコベニテングタケA.muscaria(Fr.) Hook.である。このキノコはムスカリンmuscarine,イボテン酸ibotenic acid,ムッシモルmuscimolなどのアミノ酸を含む。中枢神経に作用し,異常な興奮状態・幻覚などを起こすが,致命的ではない。

 日本のテングタケ属Amanitaには約50種が知られる。共通の特徴はかさ・ひだ・茎のほかに,茎につばとつぼがあることである。つぼは幼菌の全体を包む袋状の組織であるが,その質がじょうぶならばキノコが生長したとき袋状のつぼとなって茎の根もとを包み,質がもろいと細かく裂けて,一部はかさの表面に,一部は茎の根もとにいぼいぼとなってなごりをとどめる。前者にはタマゴテングタケドクツルタケのような致命的な猛毒菌があり,後者にはテングタケ,ベニテングタケのような毒菌があるが致命的ではない。なお前者の中にはタマゴタケA.hemibapha (B.et Br.) Sacc.のような食用菌もある。タマゴタケのかさは濃い赤,周辺部に放射状にならぶみぞ線があり,ひだ・茎・つばは濃い橙黄色,つぼは大きく純白色できわめて美しい。猛毒のタマゴテングタケの仲間は色は地味である。かさの周辺にみぞ線がなく,胞子もちがう。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「テングタケ」の意味・わかりやすい解説

テングタケ
てんぐたけ / 天狗茸
[学] Amanita pantherina (Fr.) Secr.

担子菌類、マツタケ目テングタケ科の毒キノコ。傘は径10~20センチメートル、初め丸く、のちに平らに開く。表面は灰褐色ないし暗褐色で、上に多数のかさぶた状の白いいぼいぼが点在する。このいぼは、つぼの破片である。ひだは茎に離生。茎は長さ10~25センチメートル、太さ1~2.5センチメートルで、中ほどに膜質のつばをつける。根元には、つぼの破片が2~3段、環状に並ぶ。夏から秋、松林に多くみられる。

 著名な毒茸(どくたけ)であるが、致命的な毒ではない。食後15~30分で症状が現れ、酒に酔ったような興奮状態になり、精神錯乱、幻覚、視力障害をおこしたあと、深い眠りに陥るが、回復も早い。ときに嘔吐(おうと)を伴うことがある。

[今関六也]

毒成分

以前はムスカリンというアルカロイドと考えられていたが、実際にはムスカリンの含有量は少なく、ベニテングタケと同じくイボテン酸とムッシモールという物質であることが、最近の研究で判明している。なお、ムスカリンはアセタケ属に多量に含まれる成分で、自律神経系に障害を招き、多量の発汗、瞳孔(どうこう)縮小、不整脈、心臓衰弱などをおこす。

 テングタケには、ハエトリタケという地方名もある。これは、テングタケやベニテングタケを室内に置くと、ハエが集まり、なめて倒れるからである。ハエを誘引するのは1・3-ジオレインという特殊な脂肪成分であることが武藤聡雄によって明らかにされ(1968)、化学的合成にも成功している。この脂肪成分は、イエバエのほかにミズアブ、トビムシ、ハネカクシなども誘う。また、なめて倒れるのは、先のイボテン酸とムッシモールの効き目であるが、ハエは死ぬのではなく麻痺(まひ)するだけで、2日ほどたつと生き返るという。テングタケを塩蔵または乾燥して保存し、毒性をなくして食用にする地方(長野県上田市付近)もある。

[今関六也]


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百科事典マイペディア 「テングタケ」の意味・わかりやすい解説

テングタケ

テングタケ科の大型キノコ。かさの裏のひだが純白〜黄色で無色の胞子をつけ,柄の上部に鐔(つば),下端に壺をそなえたテングタケ属の代表種。高さ30cm内外になり,ひだは白色,かさの上面は褐色で表面に黄褐色,革質のいぼを散生する。温帯地方に広く分布し,日本では夏〜秋に松林などに生ずる。毒菌。近縁のものには,かさ上面が濃赤色でひだが黄色いタマゴタケのような食菌もあるが,かさの上面が淡黄緑色のタマゴテングタケ,白色のドクツルタケ,シロタマゴテングタケのように,一見食べられそうに見え,食べれば必ず死ぬものもあるから注意が必要。ベニテングタケはかさ上面が紅色で毒菌。これらの毒成分はアマニチン,ムスカリン等である。
→関連項目キノコ毒キノコ

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「テングタケ」の意味・わかりやすい解説

テングタケ(天狗茸)
テングタケ
Amanita pantherina

担子菌類マツタケ目テングタケ科。一名ヒョウタケ (豹茸) ,ハエトリタケ (蠅取茸) 。夏から秋にかけて,マツなどの林の地上に生える。傘は径 4.5~25cm,初めまんじゅう形,のちに平らになり最後には中央がややくぼむ。太さ1~3cm,長さ5~35cmの柄をもつ。傘の表面は褐色で白色の小さないぼ状の膜が多数斑点状に散らばってついている。茎の上部に膜状の鍔 (つば) があり,下部はよく発達した壺に入っている。胞子紋は白色。このキノコにはムスカリンなどの毒成分があるので,食べることはできないがハエを捕殺するのに利用できる。日本,ヨーロッパ,北アメリカ,アフリカに分布する。

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