カッコウ

改訂新版 世界大百科事典 「カッコウ」の意味・わかりやすい解説

カッコウ (郭公)
common cuckoo
Cuculus canorus

ホトトギス目ホトトギス科の鳥。托卵(たくらん)性の鳥としてもっともよく知られている。全長約35cm,体上面と胸は灰色,腹は白地に黒帯がある。ツツドリによく似ているが,カッコウのほうが一般により淡色で,腹面の黒色横帯の幅が狭い。雌雄同色であるが,雌には全体に赤褐色の羽毛をもつ赤色型のものもいる。アジア,ヨーロッパ,アフリカに広く分布し,日本では北海道から九州までの各地で繁殖する。秋・冬季には温暖な地方へ渡っていって越冬する。日本では代表的な夏鳥。明るい林から低木の散在する草原までの開けた環境にすみ,雄はこずえでカッコー,カッコーと大きなよくとおる声で鳴く。飛びながら鳴くこともある。日本でこの声が聞かれるようになるのは,5月20日前後である。

 自分では巣をつくって繁殖せず,ほかの種の鳥の巣に自分の卵を産みつける。托卵相手はこの類では比較的幅広く,日本では二十数種が知られているが,おもにモズ,オオヨシキリ,ホオジロである。托卵するのは午後であることが多い。雌は托卵相手の鳥の巣にいき,その巣の中から卵を一つくわえとり,自分の卵を一つ産みこむ。くわえた卵は食べてしまうか,もち去る。この托卵に要する時間はほんの数秒間である。この間,托卵される側の鳥はけたたましく鳴いて脅したり,実際にカッコウに体当りして追い払おうとしたりする。托卵される巣は産卵中のものである場合が多く,抱卵が開始された巣に托卵することは少ない。一つの巣には,ふつう1個しか托卵されない。卵は仮親のものよりひとまわり大きく,色や斑はしばしば非常によく似ている。雛は10日前後で孵化(ふか)する。このときには仮親の卵はまだ孵化していないことが多く,カッコウの雛は,それらの卵を一つずつ背中にのせて巣外にほうり出してしまう。こうして巣内を独占し,その後の仮親の世話を自分だけに向けてしまう。雛は巣立ち後もかなり長い期間にわたって仮親の世話を受ける。
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古代ドイツで春の始まりがカッコウの初音で決められたり,ドイツ民謡《春の使者》でも広く親しまれているように,カッコウは春を告げる鳥であり,同時に幸運の鳥であった。その初音を聞いたとき財布をたたいたり,草の中を転がると一年中お金に不自由しないし,背中の痛みから解放されるという。あの独特の鳴声は昔から人間の寿命を告げ,また結婚した2人の間に生まれる子どもの数まで教えてくれると信じられた。鳥が神意を占う手段とされたことはタキトゥスの《ゲルマニア》からも知られるが,カッコウも超自然的な力を備えた鳥として天気を占う鳥,とくに雨を降らせる鳥とされた。春にカッコウがよく鳴くと夏に雨が多い。16世紀ごろからは悪魔のいいかえに用いられ,〈カッコウのところへいっちまえ〉というような慣用句が多い。ローマでは〈不貞な夫〉,近代ヨーロッパでは,フランス語のコキュcocu(e)のように〈寝取られ亭主〉の意味にもカッコウという語が転用される。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「カッコウ」の意味・わかりやすい解説

カッコウ
かっこう / 郭公
cuckoo
[学] Cuculus canorus

鳥綱ホトトギス目ホトトギス科の鳥。閑古鳥(かんこどり)ともいう。全長約35センチメートル、体上面と胸は灰色、腹は白地に黒い横縞(よこじま)。尾は長くて、翼も細長い。飛んだときの格好は、タカ類に似ている。カッコウという名は、そのように聞こえる鳴き声に由来している。アジア、ヨーロッパ、アフリカに広く分布し、日本でも北海道から九州までの各地で繁殖する。冬季は、南方の温暖な地方に渡って越冬する。日本で鳴き声が聞かれるのは5月中旬から7月中旬ごろにかけてである。この時期に、同じ類のホトトギスやツツドリと同様、自分では巣をつくらずに、ほかの種の鳥の巣に自分の卵を産み込む。カッコウがおもに托卵(たくらん)するのは、ヨシキリ類、モズ類、ホオジロ類、セキレイ類である。雌はそれぞれ一定の範囲の地域にすみつき、それらの鳥の繁殖状況をみて回る。そして、それら「仮親」が産卵を始めると、卵を一つ抜き取り、自分の卵を一つ産み付ける。卵は仮親のものと色や模様がよく似ていることが多いが、大きさはやや大きい。雛(ひな)は、仮親のよりも1~3日早く孵化(ふか)する。孵化後しばらくすると、まだ孵化していない仮親の卵を背中に一つずつのせて、巣の外にほうり出してしまう。こうして巣内を独占し、その後の仮親の世話を自分だけのものにしてしまう。巣立つころには、雛は仮親の何倍も大きくなり、盛んに食物をねだる。毛虫を好んで食べる。巣立ち後も1か月以上にもわたって仮親の世話を受ける。頭上によく目だつ白斑(はくはん)が1、2個あるのが、雛の特徴である。

[樋口広芳]

民俗

カッコウの鳴き声は春を告げるものとされた。古代ギリシアでは、カッコウが鳴くと畑を耕し始め、ドイツやイギリスでも初鳴きを喜びをもって迎えた。中国でも農耕の始めとし、日本では豆播き鳥(まきどり)とよんで、声を聞くと豆を播くという所が多い。またカッコウが早くくれば豊年、遅ければ凶年という伝えもある。古代ギリシアの「カッコウ変じてタカとなる」という俗信は、カッコウの渡来と入れ替わりにタカが北へ渡るために生まれたらしい。日本には、カッコウの托卵(たくらん)性を説明する昔話もあり、カッコウはお姫様で育児ができないので、乳母(うば)のモズに子供を育ててもらうなどという。カッコウの名の由来譚(たん)には、母の背中を掻(か)くことを断った子が、母の死後、鳥になって「掻こう」といって鳴くという話もある。

 シベリアの諸民族には、カッコウと死者を結び付けた伝承がある。カッコウを尊んで、射ったり殺したりしないというモンゴル系のブリヤート人には、カッコウが死んだ英雄を蘇生(そせい)させるという伝説があり、カッコウがいなくなる8月から翌春までの間は、死者を火葬にしないという。またマリ(チェレミス)人には、墓の上に木製のカッコウを置く習俗があった。

[小島瓔


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カッコウ」の意味・わかりやすい解説

カッコウ
Cuculus canorus; common cuckoo

カッコウ目カッコウ科。全長 35cm。頭部と体の上面は灰青色で,胸と腹は白く暗灰色の横縞がある。尾羽は黒灰色で,白い横縞が入り,先端も白い。雌には赤褐色型もある。自分で巣をつくらず,モズオオヨシキリノビタキホオジロオナガなどの巣に卵を産み,それらの鳥の親鳥に抱卵,育雛を任せる托卵習性がある。カッコウの卵は仮親の卵より孵化までの日数が短く,孵化するとは仮親の卵や雛を背中に乗せて巣の外に押し出し,その巣を独占する。北アフリカユーラシア大陸の温帯地域から北の広い地域で繁殖し,アフリカのサハラ砂漠以南と南アジアに渡って越冬する。日本には夏鳥(→渡り鳥)として 5月頃渡来し,北海道本州四国地方の平地から高原の,農耕地や疎林に生息する。昆虫食で,ほかの鳥が好まない毛虫類も好んで食べる。「かっこー,かっこー」と鳴く。なお,カッコウ科 Cuculidaeは世界に約 150種が知られている。

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普及版 字通 「カッコウ」の読み・字形・画数・意味

溝】かつこう

太古、屍をくずで包み、溝に棄てた。〔法言、重黎〕楊王孫、裸以て世を矯(た)めんとす。曰く、~如(も)し世を矯めんとせば、則ち(まさ)れり。

字通「」の項目を見る

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百科事典マイペディア 「カッコウ」の意味・わかりやすい解説

カッコウ(郭公)【カッコウ】

ホトトギス科の鳥。カッコーカッコーと鳴くのでこの名がある。翼長22cm。背面は灰青色,尾は長く暗色で白斑が並ぶ。ユーラシア大陸の中南部およびアフリカ南部で繁殖。日本には九州以北に夏鳥として渡来し,繁殖。冬は南方へ去る。ガの幼虫を好んで捕食。自分で巣を作らずオオヨシキリ,ホオジロ,モズ等に托卵し,ひなを育てさせる。

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デジタル大辞泉プラス 「カッコウ」の解説

かっこう

フランスの作曲家ルイ・クロード・ダカンの『クラヴサン曲集』第1巻(1735)の第2曲。原題《Le coucou》。

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世界大百科事典(旧版)内のカッコウの言及

【ダカン】より

…39年王室礼拝堂(〈王のオルガン奏者〉の称号を得る),55年パリのノートル・ダム大聖堂のオルガン奏者になる。残された作品は二つの曲集のみで,《オルガンとクラブサン用の新ノエル集》(1740ころ)はダカンの名手ぶりのなごりをとどめ,《クラブサン曲集 第1巻》(1735)は,クープランやラモーの作風を踏襲した作風であるが,とくに《カッコウLe coucou》は愛らしい標題作品として知られている。【船山 信子】。…

※「カッコウ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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