トレハロース(英語表記)trehalose

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

トレハロース
とれはろーす
trehalose

非還元性二糖類の一種。非還元性二糖類とは2分子の単糖が互いに還元基(アルデヒド基やケトン基)どうしで脱水結合(脱水縮合)した二糖のことで、還元基を失うためにフェーリング溶液(還元糖の検出と定量に用いる試薬)を還元しない。代表的なものが2分子のグルコースが結合したトレハロースである。グルコースはアルドヘキソース(アルデヒド基をもつ六炭糖)の一種である。アルドヘキソースはアルデヒド基(-CHO、この炭素を1番目とする)と5番目の炭素についたヒドロキシ基(-OH)が分子内反応をすると6員環(炭素五つと酸素一つからなる)を形成する。この環状構造の糖を一般にピランという化合物にちなんでピラノースと総称する(環状構造になる前の構造を鎖状構造という)。6員環構造のグルコースをグルコピラノースとよぶ。鎖状構造のアルデヒド基の炭素(不斉炭素ではない)は環状構造では不斉炭素となるため2種類の異性体ができる。これらをα(アルファ)、β(ベータ)と区別する。トレハロースにはα-グルコピラノース2分子からなるもの、α-グルコピラノースとβ-グルコピラノースからなるもの、β-グルコピラノース2分子からなるものの3種の異性体が存在する。
 α-グルコピラノース2分子からなるものはα-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノシドと表記する。ミコース、ミコシド、マッシュルーム糖ともいう。麦角(ばっかく)(子嚢(しのう)菌の一種であるバッカクキンがライ麦、大麦などの子房に寄生してつくった菌核)中に発見された。キノコ、酵母、昆虫などに広く分布する。昆虫では血リンパ中の主要血糖であり、不凍剤として耐寒性を得るため季節により濃度を調節している。酵母により発酵される。組成式はC12H22O11、分子量は342.30。二水和物の融点は96.5~97.5℃。無水物の融点は203℃。比旋光度[α]+178°(c=7。cは旋光度を測定したときの濃度で、7g/100mlで測定したことを示す。二水和物)(『メルクインデックス 13版』The Merck Index, 13th Edition)。甘味はショ糖の50%。水、熱アルコールに溶ける。エーテルに不溶。
 α,α-トレハロースのグルコシド結合を特異的に加水分解する酵素、α,α-トレハラーゼは動物、植物、微生物に広く分布している。ヒトの小腸はある程度のトレハラーゼ活性をもっているが、現代人の食生活でこの酵素がどれだけの役割を果たしているかは不明である。小腸において消化・吸収されない糖質は大腸において腸内細菌によって発酵され、その生成物が体内に吸収されてエネルギー源として利用される。種々の糖アルコールやオリゴ糖のエネルギー換算係数が推算されおり、トレハロースの係数は約3.5キロカロリー/グラムであるとされている。工業的にデンプンを原料として生産される。冷凍・解凍時のタンパク質の変性防止、デンプンの老化防止、不快臭のマスキング(不快臭のない化学種に変えること)など食品や化粧品へ利用されている。
 α-グルコピラノースとβ-グルコピラノースからなるものはネオトレハロースという。β-グルコピラノース2分子からなるものはイソトレハロースという。いずれも化学合成で得られる。[徳久幸子]
『岡田茂孝・北畑寿美雄監修、中野博文他編『工業用糖質酵素ハンドブック』(1999・講談社) ▽細谷憲政監修、武藤泰敏編著『消化・吸収――基礎と臨床』改訂新版(2002・第一出版)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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