ドイツの神学者、哲学者、精神史家。ハイデルベルク大学、ベルリン大学などの教授。彼の広範な活動を一貫する課題は、キリスト教的理念の自明性崩壊に伴う価値のアナーキーに直面して、新しい価値秩序をいかに確立するかということであった。アナーキーは自然主義よりも歴史主義に由来しており、問題は歴史と信仰、キリスト教の絶対性ということになる。宗教を考察するには、厳正な批判的、歴史学的手続と倫理学的自覚の双方が要求される。ここに素朴な絶対性主張にかわって、キリスト教と西洋文化の一体性を踏まえての文化総合の妥当性の立場が、人格的、内面的決断を前提として提唱される。彼は歴史主義の哲学者ともよばれたが、歴史主義的懐疑、相対主義の克服も、この文化総合によるのである。精神史家としては、マックス・ウェーバーの影響が大きい。彼の誠実な思索は今日もなお学ぶところが非常に多い。おもな著書は『歴史主義とその諸問題』(1922)、『歴史主義とその克服』(1924)など。
[常葉謙二 2018年1月19日]
『近藤勝彦他訳『トレルチ著作集』全10巻(1980〜1988・ヨルダン社)』▽『大坪重明訳『歴史主義とその克服』(1956・理想社)』▽『熊野義孝著『トレルチ』(1973・日本基督教団出版局)』
ドイツのプロテスタント神学者,哲学者。ハイデルベルク大学の組織神学教授,後にベルリン大学の哲学教授。はじめリッチュルの影響を受けたが,やがて宗教史学派の神学者となる。カント,ヘーゲル,シュライエルマハー,ロッツェなどの影響の下で,ディルタイ,新カント学派,M.ウェーバーとの交流をまじえて思想を深めた。その学問領域は,神学,宗教哲学,倫理学,歴史哲学,宗教社会学,文化史・精神史研究,政治や時代史の論評など広範囲にわたり,その各領域に貴重な業績を残した。〈キリスト教の絶対性〉〈宗教的ア・プリオリ〉〈文化総合〉〈歴史主義〉といった諸概念がそれらの一端を示している。彼の中心主題は,こうした諸領域にわたりながらも,一貫してキリスト教的ヨーロッパの歴史的運命を認識し,その現代的形成に努力することであった。大著《キリスト教会と諸集団の社会教説》(1912)は多方面に多大の影響を与えた。
執筆者:近藤 勝彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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1865~1923
ドイツのプロテスタント神学者,歴史哲学者。ハイデルベルク大学神学教授,ベルリン大学哲学教授を歴任。自然とは異なる歴史的文化の独自性を反復不可能な「個性的全体性」に求めつつ,歴史主義特有の相対主義の克服に努めた。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
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…1880年代の終りに,古代キリスト教を宗教史的方法によって解明しようとしてドイツの一群のプロテスタント神学者が始めた学問的運動とそのサークル。代表者は年長順に,アイヒホルンA.Eichhorn,ウレーデW.Wrede,ライツェンシュタインR.Reitzenstein,グンケル,ブセット(ブーセ)W.Bousset,トレルチなど。彼らは宗教への内的共感から宗教の生きた発展の姿をとらえようとする宗教史的方法をとくに原始キリスト教に適用し,その祭儀や思想の奥にある霊的・内的敬虔としての宗教性が周辺の世界の宗教に連なることを文献学的に究明しようとした。…
… ドイツのプロテスタントでは,シュライエルマハーからK.バルト以前までの神学を広く近代主義神学と呼ぶが,ここでは自由主義神学のほうが一般的名称である。ただし狭い意味での自由主義はD.F.シュトラウス,ビーダーマンA.E.Biedermann(1819‐85)のように教義を解消していくもの,および19世紀の終りに登場する宗教史学派(聖書学者に多いが体系的にはE.トレルチが代表する)にみられる。シュライエルマハーは敬虔主義に連なって,教義中心の正統主義を批判し,キリスト教を宗教論と信仰論としてとらえ直すことに努めた。…
…フランス革命の混乱と挫折とを体験した西欧では,この機械論的合理主義に対する反動としてロマン主義が登場し,人間的世界は合理的に割り切れるものでなく生命の躍動のうちに生成・発展する連続的過程であるから,これを有機的全体として歴史のなかでとらえなければならないと主張した。この立場を学問的に主張したのはE.トレルチとF.マイネッケである。トレルチはそれぞれの時代と文化はそれぞれの価値をもつものであるから,古代や中世の状態を近代の価値尺度ではかってはならず,全体を展望して〈現代的文化総合〉と〈未来への価値形成〉をはかるものとして歴史主義を説いた。…
※「トレルチ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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