トロス(英語表記)tholos

改訂新版 世界大百科事典 「トロス」の意味・わかりやすい解説

トロス
tholos

古代ギリシア語では円形建造物をさす。時代により三つのものが知られる。(1)ミュケナイ時代では地下穹窿墓(きゆうりゆうぼ)のことで,円蓋墓とも呼び,前15~前13世紀のミュケナイ文化圏に広くみられる領主の墓。まず丘の側面に円形の大穴を掘りさげ,そこに切石を用いて持送り手法により円錐の堂を築きあげると,土で覆って地下室とする。そして側面から水平に,その円堂に至る墓道をつけている。円天井ではなく先端が少し尖るから蜂窩状墳墓beehive tombともいわれるが,その規模,技術においてミュケナイ文明の誇るべき構築物の一つである。〈アトレウスの宝庫〉とよばれるものは,現在までも天井まで保存されて偉観を保っている。(2)クレタの初期ミノス文明時代,前2000年代にだけあらわれた円形墳墓。メッサラ平野やハギア・トリアダなどに残る。これらは地上に荒石を積みあげた円環状の壁体だけで,上部構造はわからない。ミュケナイの穹窿墓の先駆との説があるが,確かではない。(3)ギリシア時代,前4世紀以降の円形の堂体の外側内側列柱をめぐらした建物。おもに神殿に用いられた。エピダウロスのものが有名であったが,今日一部が復元されて原状が察せられるのは,デルフォイのもの。その外側の20本の列柱はドリス式,内側の10本はコリント式であった。ローマにもみられる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「トロス」の意味・わかりやすい解説

トロス
とろす
tholos ギリシア語
tholos 英語

建築用語。古代ギリシア・ローマの円形の墳墓および円形のプランをもつ建造物。トロスにはミケーネ時代ならびにエトルリアの穹窿(きゅうりゅう)式墳墓のほか、ギリシア・ローマ時代に建立された列柱を配した円形プランの建造物も含まれる。エピダウロス、デルフォイのマルマリア、オリンピアの各聖地に建つトロスはいずれも紀元前4世紀ごろのもの。もっとも著名な作例にミケーネのいわゆるアトレウスの宝庫(前13世紀初期)、ローマのパンテオン(建立は前1世紀、現存の建物は後2世紀の改築)がある。

[前田正明]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「トロス」の意味・わかりやすい解説

トロス
tholos

建築用語。円形のプランをもつ建築。主として古代ギリシア建築について用いる。「アトレウスの宝庫」のようなクレタ=ミケーネの穹窿墓に最も古い形がみられる。デルフォイ,エピダウロス,オリンピアなどの聖地に古代ギリシアの周柱式トロスの遺構がある。

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百科事典マイペディア 「トロス」の意味・わかりやすい解説

トロス[山脈]【トロス】

タウルス山脈とも。トルコ南西部,アナトリア高原の南縁をなし,地中海岸に並行して走る。セイハン川以東は東南トロス山脈という。全長約900km。最高峰エルジヤス山(3916m)。東端部は古くからキリキア門として有名。クロム,銅,銀を産する。

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世界大百科事典(旧版)内のトロスの言及

【住居】より

…内部は2階になっていた。一般にこうした円形の建物をトロスtholosと呼び,クレタやミュケナイに見られる長方形の建物をメガロンと呼ぶ。
[古代エジプト,メソポタミアの住居址]
 古代エジプトの住居は日乾煉瓦の壁体をもち,陸屋根を架けていたが,形式としては1棟の住居としてつくられるものと,中庭型住居とに分かれる。…

【ロトンダ】より

…円形の空間は人々の宇宙観,生死観と深い関連をもち,古くから墳墓や神殿の形態として用いられた。古代ギリシアの円形神殿(トロスtholos)もその一例であり,ローマのパンテオン(2世紀初め)は最も壮大な円形神殿で,〈ロトゥンダRotunda(ラテン語)〉の代名詞で呼ばれた。この伝統はキリスト教建築にも継承され,洗礼堂や聖人の廟などに円形プランが用いられることが多かった。…

【アコヤガイ(阿古屋貝)】より

…養殖真珠の母貝に使うウグイスガイ科の二枚貝(イラスト)。真珠をとるのでシンジュガイともいう。殻の高さ7.5cm,長さ7cm,膨らみ3cmに達する。左殻は右殻よりも膨らむ。形は一定しないが四角形状。殻表はふつう黒褐色で黒紫色の雲状斑や赤色,緑色,黄色などの色帯が殻頂から放射状に出,成長脈に沿って雲母状片が重なったようになるが,成長するとそれらを失って滑らかになり,動植物が付着し汚れる。右殻の前縁には足糸が出る隙間があり,糸を出して岩などに付着する。…

【ギリシア】より

…彼らはしだいに海上に進出してエジプトやメソポタミアの文明,ことにミノス(クレタ)文明を採用して前1600年ころには高度な青銅器文明をつくりあげた。これがミュケナイ文明で,これをつくりだしたギリシア人の支配層は,壮大な城砦と巨大な穹窿墓(トロス)を築き,戦車を駆る貴族層で,その中から卓越した王が,ミュケナイ,ティリュンス,ピュロス,オルコメノス,アテナイなどの城砦の中に華麗な壁画をもつ王宮を営んでいた。前15世紀にはミュケナイ勢力はミレトス,メロス,クレタ,テラ(サントリニ)に及んだ。…

【住居】より

…内部は2階になっていた。一般にこうした円形の建物をトロスtholosと呼び,クレタやミュケナイに見られる長方形の建物をメガロンと呼ぶ。
[古代エジプト,メソポタミアの住居址]
 古代エジプトの住居は日乾煉瓦の壁体をもち,陸屋根を架けていたが,形式としては1棟の住居としてつくられるものと,中庭型住居とに分かれる。…

【集中式プラン】より

…古代オリエントでは集中式プランの建物に,天国・神の国を象徴するドームやその代用としての円錐または角錐の屋根を組み合わせ,その超越性を強化したといわれる。ギリシア・ローマの例に円形神殿トロスがある。この伝統はローマを経由して後世に伝えられ,ビザンティン帝国のキリスト教教会堂(ハギア・ソフィア,オシオス・ルカス修道院など)とイスラム世界のモスク,廟にすぐれた作品を残し,西欧でも近世に若干の集中式教会堂(アンバリッドのドームなど)が作られた。…

【ロトンダ】より

…円形の空間は人々の宇宙観,生死観と深い関連をもち,古くから墳墓や神殿の形態として用いられた。古代ギリシアの円形神殿(トロスtholos)もその一例であり,ローマのパンテオン(2世紀初め)は最も壮大な円形神殿で,〈ロトゥンダRotunda(ラテン語)〉の代名詞で呼ばれた。この伝統はキリスト教建築にも継承され,洗礼堂や聖人の廟などに円形プランが用いられることが多かった。…

※「トロス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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