ギリシア南部,ミュケナイ城外にある九つのトロス(穹窿墓(きゆうりゆうぼ))のうち,最も保存のよいもの。宝庫と呼ぶのは,かつて財宝が埋められていたとの俗信からであり,また〈アガメムノンの墓〉とも呼ばれるが,もとより確証はない。しかし各地にあるミュケナイ時代の同種の墓の典型的なもので,墓は丘の側面につくられ,長さ36mの墓道を進むと,地下の円頂室(穹窿室)の入口に至る。この入口の高さ10.5m。その上にある巨大な楣石(まぐさいし)の上の三角形の空間には,かつて彫刻した石板がはめられていた。円頂室は高さ13.5m,直径14.6m。美しい切石の層をしだいに狭めつつ築きあげること33層で頂点を閉ざす。頂上は少しとがるから,蜂巣状墳ともいう。第3層あたりから上部には青銅製の花形か渦文を散らした鋲跡をみる。ミュケナイ人の工学的才能が生んだ傑作である。しかしこの室は祭室であって,それにつづく高さも幅もほぼ6mの側室が埋葬室である。
執筆者:村田 数之亮
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…ドイツ語のドームDomも同様),さらに教会堂のきわだった円屋根を意味するようになった。 建設の歴史は古く,水平に積まれた石層を順次せり出した持送り式ドームの例にミュケナイ時代の遺跡アトレウスの宝庫がある。ローマ時代にはパンテオン(内径43m)に代表される単殻コンクリート造ドームが建設されたが,煉瓦壁とコンクリートによるこの種のドームは基層部に外向きの推力が生じるため,ドームの周囲に沿ってそれを支持する巨大な扶壁(バットレス)を必要とした。…
…その形状は多数の室を並べたバビロニアの邸宅に近いもので,内部の階段で地下墓室に下りるようになっている。 エーゲ海文明では,ミュケナイ城外のアトレウスの宝庫(前1250ころ)が,切石を積んだ尖頭ドーム型の墓室の前に羨道を設け,土を盛って全体を円墳状に仕立ててある。また,ミュケナイ城内の墳墓(前1500ころ)は,板石で囲んだ直径10mの土地に14個の竪穴を掘り,24体の遺体を金銀の副葬品とともに埋めてあった。…
※「アトレウスの宝庫」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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