翻訳|Dravidian
ドラビダ語族に属する言語としては,固有の文字と文献とをもち,インドの公用語ともなっている,タミル語,マラヤーラム語,カンナダ語,テルグ語と,文字をもたない18(あるいはそれ以上)の言語とがある。これら諸語は,地域と言語の特徴とに基づいて,北部ドラビダ語,中部ドラビダ語,南部ドラビダ語の三つに大別される。まず南ドラビダ語には,南インドのタミル・ナードゥ州およびスリランカ北部のタミル語(4500万人),ケーララ州のマラヤーラム語Malayālam(2500万人),カルナータカ州のカンナダ語Kannada(3400万人)のほか,ニルギリ山中のトダ語(800人),コータ語(900人),クールグ地方のコダグ語(4万人),マンガロール周辺で話されるトゥル語Tulu(94万人)などがある。また中部ドラビダ語には,中央インドのクイ語Kui(50万人),クビ語(20万人),コラーミ語(5万人),ゴーンディ語Gondi(150万人)などが含まれるほか,ドラビダ語族中,最大の話者人口をもつテルグ語(アーンドラ・プラデーシュ州,4900万人)も含まれると考えられている。さらに北ドラビダ語として,クルク語Kurukh(114万人),マールト語(9万人),そしてはるかバルーチスターンに孤立しているブラーフーイー語Brahui(30万人)がある。これらドラビダ諸語の話者人口は,インド総人口の約25%に相当する。
ドラビダ諸語の母音には,a,i,u,e,oおのおのの長・短母音がある。子音では,喉音,口蓋音,反舌音,歯茎音,唇音が存在するが,なかでも反舌音の発達が顕著である。名詞・動詞の変化は接尾辞の付加によって行われるため,類型的に膠着語の一種として分類される。名詞の数では,単数と複数の区別がある。性に関しては,普通,男性とそれ以外とを区別するか,または通性と中性とを区別するが,南部ドラビダ語の単数では,男性・女性・中性の三つを区別する。動詞の人称語尾は,代名詞的要素の発達したものと考えられ,したがって三人称では,名詞の変化と同様に性と数が区別される。動詞組織の大きな特徴として,全体が肯定表現と否定表現とに大別されることがあげられる。また複合動詞表現が発達しており,それによりさまざまな法や相が表現される。関係詞がない反面,分詞が発達しているのも特徴の一つである。語順は全般的に日本語に似ている。ドラビダ語族の系統に関しては,これまでいろいろの説が提出されてきたが,ウラル語族またはアルタイ諸語との親縁関係の可能性があるということを除いて,まだ確実なことはわかっていない。
執筆者:高橋 孝信
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
主としてインド南部(タミル・ナド州、ケララ州、カルナータカ州、アンドラ・プラデシュ州)に住む人々によって使用され、インド・アーリア諸語と相互に影響しつつ発達してきた、古くて豊かな文化伝統をもつ語族である。黒褐色の肌、痩身(そうしん)、中高鼻、長頭という肉体的特徴をもつドラビダ人の先祖は、地中海沿岸から移住して紀元前3500年ごろインド亜大陸に入ってきたと考えられているが、その約2000年後さらに南ウラル地方から集団移住してきたアーリア人の勢力によって、インド南部に追いやられてしまったものと考えられる。この歴史的事実を裏書きするかのように、パキスタンのバルーチスターン地方やシンド地方に住む一部の住民は、いまなおドラビダ語族に属するブラーフイー語を話している。また、モヘンジョ・ダーロやハラッパーの遺跡から発掘された碑文に関する最近の研究により、前3250年から約500年間にわたりインド亜大陸の北西部に栄えた都市文化は、ドラビダ系のものであったろうと考えられている。
ドラビダ語族の諸言語を話す人々のなかには、スリランカをはじめマレーシア、インドネシア、ベトナム、南アフリカ共和国などの諸外国に移住した者もおり、これらの人々を含めると、ドラビダ語族の総人口は1億3000万人強に達するものと推定される。また、この語族は、大まかに次の三つの下位グループに分けることが可能である。(1)北方グループ(ブラーフイー語、マルト語、クルク語)、(2)中央グループ(ゴーンディー諸語、クイ語、クウィー語、ガドバー諸語、パルジ語、ナイキ語、コーラーミー語、サバラ語、テルグ語)、(3)南方グループ(バダガ語、カンナダ語、コダグ語、コータ語、トダ語、マラヤーラム語、タミル語、イルラ語)。なお、トゥル語がどのグループに属するかは、まだ確定していない。以上の諸言語のうち大きな使用人口をもつものに、タミル語、マラヤーラム語、カンナダ語、テルグ語の四言語があり、それぞれタミル・ナド州、ケララ州、カルナータカ州、アンドラ・プラデシュ州の公用語となっていて、互いに異なる文字によって書き表される。ドラビダ語族のすべての言語は、歯音・歯茎音・そり舌音の三音韻系列をもち、名詞は格と数を、代名詞は男・女・中の三性を示し、動詞は主語の人称と数に応じて変化する。
この語族のもつ膠着(こうちゃく)語的特徴から、同じ類型的特徴を有する他の諸言語、たとえばコーカサス諸語、朝鮮語、日本語、シュメール語、ウラル語族などとの比較を通じて、親族関係の有無が研究されてきているが、まだ言語学的に証明されるまでには至っていない。
[奈良 毅]
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…彼らはやがて,次に来たアーリヤ族に押されて南インドに下り,彼らの言語が分化してタミル語,テルグ語などになったが,ブラーフーイー語のように,もとのバルーチスターンに残存している場合もある。この系統の言語(ドラビダ語族)には千万人単位の話者人口をもつものが四つあり,全人口の21%を占める。(4)4番目の種族は,チベット・ビルマ方面から入って来た人たちで,彼らのチベット・ビルマ語派系の言語はヒマラヤ山系と東北インド,バングラデシュの山岳・丘陵地帯に分布し,数十万人から1万人弱の少数部族民により話されている(ネワール語,マニプリー語など)。…
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