ナナフシ(読み)ななふし

改訂新版 世界大百科事典 「ナナフシ」の意味・わかりやすい解説

ナナフシ (七節)
stick-insect
walking-stick

ナナフシ目ナナフシ科の1種。またはナナフシ目に属する昆虫の総称。ナナフシBaculum irregulariterdentatumは体長7~10cmのやや大型の虫で,タケの小枝に似た細長い体をしており,触角は短く,翅を欠いている。本州から九州にかけて分布し,色彩暗褐色または黄褐色頭部は小さく,雌では背面に1対のとげがある。成虫は夏季出現し,ヤマブキやヤマフジなどを好んで食べ,ナラエノキの葉なども食べる。卵は不規則にゆがんだ箱型で,一種の草の実状。食樹上で生活する。

 ナナフシ目Cheleutoptera(=Phasmida)は,バッタコオロギなどの直翅目に近縁の昆虫群で,このナナフシのようにタケの枝状のものが多いが,円筒状のものやコノハムシのように木の葉型のものも知られている。いずれも頭部は小さく,背面はとげをもつこともある。口はかむ型で,大あごに歯状突起がなく,かみあわせの面は平たい。複眼は小さく,触角は長いものも短いものもある。前胸は頭部とほぼ等しい長さであるが,中胸は長くのびており,後胸は腹部第1節と癒合している。前翅はふつう退化的で小さく,卵円形で肥厚している。後翅は退化的ではあるが,前翅よりははるかに長い。後翅の背面から見える部分は肥厚しているが,折りたたまれて隠されている部分は薄膜状で,広げると半円形となる。この後翅の薄膜部分はしばしば赤や青などの鮮やかな色彩にいろどられる。肢の3対はゆっくり歩くために適応し,細くて長いが,円筒形の体をした種の中には後肢が太くなり,強いとげをもつ種も見られ,また木の葉型の種ではかざりの葉片をつける。腹部は細長いが,コノハムシ類では扁平で幅広となる。尾角は1節。雄の交尾器は不相称で,雌の産卵管は腹部第8腹板その他で隠されている。

 ナナフシ類は食葉性のため,植物葉上で生活する。樹木類の葉を好んで食べ,1本の樹木上に多数がとりついていることがある。小枝型や木の葉型の体つきが示すように,すみ場所での隠蔽的擬態を示す。卵は草の実状で,これも地上にばらまかれるとほとんど目だたなくなってしまう。変態は不完全で,幼虫は成虫とよく似た形態をしており,行動も成虫とほとんど変わらない。明るいところでは不動姿勢を示し,また体色を変える現象も知られている。有翅のものでは,後翅を広げ,しばしばグライダー状に飛ぶことができ,そのとき多くのもので後翅の鮮やかな色彩を示す。なお,暖地では両性が見られるが,同じ種でも環境的に劣る場所に見られるものでは単為生殖でふえることがあり,また単為生殖種そのものも多く知られている。世界から約2000種が知られ,日本には十数種を産する。ナナフシのほか,エダナナフシトビナナフシオキナワナナフシなどが代表種である。
執筆者:

タイの薬屋にはナナフシの糞を売っているという。安松京三によると,タイでは大型のナナフシをタクタン・キンマイと呼び,これをグアバの葉で飼育し,糞を集める。集めたものを火でいり,これに熱湯をかけて〈糞のお茶〉として飲用に供する。消化に非常によいという。また,体長20cmを超えるものもいる大型種を産するニューギニア島では,現地の人々がこれをとらえ,たき火で焼いて食用にする。なおヨーロッパでは熱帯地方からナナフシの卵をとり寄せて飼育し,木の枝にとまったり緩慢に移動する様を観賞することも行われている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ナナフシ」の意味・わかりやすい解説

ナナフシ
ななふし / 竹節虫
[学] Baculum irregulariterdentatum

昆虫綱ナナフシ目ナナフシ科に属する昆虫。体長7~10センチメートルの棒状の虫。タケの枝に似るので、漢字では竹節虫をあてている。体は暗褐色または黄緑色。頭部は小さく、上から見ると方円形。雌の頭部には1対の角(つの)様突起を生ずる。触角は短く、第1節は幅広い。触角は中胸より短いので、近似のエダナナフシなどとは容易に識別できる。無翅(むし)で、3対の脚(あし)はいずれも細長い。中・後脚の腿節(たいせつ)末端に各1対の歯があり、またどの腿節にも腹方に歯状突起を多かれ少なかれもっている。成虫は夏に出現し、ナラやエノキの樹上にすみ、その葉を食べる。卵は不規則にゆがんだ扁平(へんぺい)な草の実形で、一般にみられる樽(たる)形ではない。本州、四国、九州に分布する。

 ナナフシ目Phasmida (Cheleutoptera)は、直翅系昆虫の一群で、直翅目に近縁である。中形から超大形のものまで大きさはいろいろで、棒状のナナフシ科と扁平で幅広いコノハムシ科とに分けられる。ナナフシ科は一般に頭部は小さく、触角は糸状で長短さまざまであり、前胸はつねに頭の大きさ程度で短いが、中胸は異常に伸長している。後胸も中胸に劣るが長くなる。前翅は鱗片(りんぺん)状で、後翅は普通よく発達し扇形である。グライダーのように飛ぶこともある。前・後翅を欠くものも多い。一方、コノハムシ科では、雌の触角は短く、頭部は前胸に比べて大きく、中・後胸とも短い。前翅はよく発達しており、雌では左右あわせて1枚の木の葉のように見せかける。ナナフシ科の脚は、細いものが普通であるが、なかには極端に太くなる種も知られている。コノハムシ科の脚は平たく、飾りの葉片をつけている。いずれも腹端の尾角は無節、また雄の交尾器は不相称で、雌の産卵管は強く退化している。産卵管は第8腹部腹板である下蓋板(かがいばん)と、それに対応する腹部背板とによって覆い隠されている。

 ナナフシ目の昆虫は、外敵を防ぐため、特殊な液を放出する種もあるが、一般的にはこれといった武器をもっていない。そのため、ほとんどの種が植物の茎、枝、葉、樹皮などに色彩・形とも似せ、強い隠蔽(いんぺい)的擬態を行う。実際に野外で植物上に止まっていると、きわめてみつけにくい。いずれも植食性のおとなしい昆虫であるが、ときに大発生すると樹木などを丸坊主にしてしまうことがある。卵は地上にばらまかれるか、植物葉上に産む。いずれも植物の種子を思わせる形をしている。また、一般には樽形で、蓋(ふた)がついている。孵化(ふか)するときはこの蓋を持ち上げて出てくる。卵は種ごとにひどく異なっているので、分類のよい特徴となっている。単為生殖する種も知られ、両性生殖種でも環境条件が悪化すると単為生殖に切り換えるものもある。世界から2000種以上が知られ、日本からはナナフシやトビナナフシMicadina phluctaenoidesやトゲナナフシNeohirasea japonicaなど12種ほどが知られている。

[山崎柄根]


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百科事典マイペディア 「ナナフシ」の意味・わかりやすい解説

ナナフシ

ナナフシ目の昆虫の1種。体長70〜100mm,緑色または褐色。体は細長く,小枝に似る(擬態)。関東以西に分布し,夏〜秋に成虫が現れる。熱帯地方に種類が多く,日本には約20種。卵は直接地面に散布されただけで外敵に対し無防備であるが,植物の種子に酷似し,外見では区別できない種類もある。

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