ニコラウスクザーヌス(読み)にこらうすくざーぬす(その他表記)Nicolaus Cusanus ラテン語

精選版 日本国語大辞典 「ニコラウスクザーヌス」の意味・読み・例文・類語

ニコラウス‐クザーヌス

  1. ( Nicolaus Cusanus ) ドイツ神学者哲学者スコラ哲学から近代哲学へのなかだちをなし、聖職者としては教会改革に努力し、東西両教会の合同を主張した。主著「学識ある無知」。(一四〇一‐六四

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ニコラウスクザーヌス」の意味・わかりやすい解説

ニコラウス・クザーヌス
にこらうすくざーぬす
Nicolaus Cusanus ラテン語
Nikolaus von Cusa ドイツ語
(1400/1401―1464)

ドイツの神秘主義哲学者、教会政治家。中世近世との間にたつ思想家。中世哲学最後の人でありながら、哲学、物理学、天文学などにおいて近世への道を開いた先駆的学者といわれる。クサヌスともいう。モーゼル河畔のクエスの出身。少年時、オランダで敬虔(けいけん)な教育を受け、ハイデルベルクパドバ法学、数学、哲学などを学び、のち神学に専念司祭となり、1432年バーゼル公会議には会議派として参加したが、教皇派となり教会政治に携わる。東西両教会合同の企てに参画、1437年コンスタンティノープルに赴く。1448年枢機卿(すうききょう)、1450年ブリクセンの司教となり、教会改革に尽力した。

 諸教派さらに異教に対し、当代まれにみる寛容と理解を示したが、それは彼の思想自体に由来する。新プラトン主義、否定神学の流れをくむ彼によれば、神はその無限性において万物を超越しつつ、しかも有限者のあらゆる区別・対立を合一して含む単純な一者、「反対の一致」coincidentia oppositorumである。この神に触れ、反対の一致をとらえることが人間的認識の頂点をなすが、それは通常の合理的知識の否定的克服である「知ある無知」docta ignorantiaの直観、すなわち信仰において達成される。万物は神の展開であり、それぞれの差異性、個別性において神に与(あずか)っている。宇宙は制限されているが空間的・時間的に無限界・無限であり、そこには定まった中心はなく、むしろ至る所が中心である。運動は相対的である。地球を中心とする中世的・有限的宇宙観はすでに超えられ、地動説も理論上認められていた。世界と人間が神に与るという意味で積極的にとらえられたが、万物を含む「小宇宙」である人間を神に仲介するのは、ロゴスの受肉としてのキリストであり、キリストへの愛が教会を成り立たせる。教会の本質形態は多様性における一致なのである。彼はブルーノ、ライプニッツに影響を与え、ガリレイにも親しまれていた。主著に『知ある無知』De docta ignorantia(1440)がある。

[常葉謙二 2017年12月12日]

『岩崎允胤・大出哲訳『知ある無知』(1966・創文社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ニコラウスクザーヌス」の意味・わかりやすい解説

ニコラウス・クザーヌス
Nicolaus Cusanus

[生]1401. モーゼル河畔ベルンカステルクース
[没]1464.8.11. ウンブリア,トディ
ドイツの哲学者,宗教家。本名 Nikolaus Chrypffs。ドイツ,イタリア各地に諸学を学び,1430年司祭となった。バーゼル公会議に公会議派として参加。のちに教皇派に転じ,37年教皇使節としてコンスタンチノープルにおもむき,つかのまの東西教会合同を達成。 48年枢機卿,50年ブリクセン司教。神は「対立物の一致」 coincidentia oppositorumであり,無限の単純さのなかに万象を含んでおり,世界はその展開であるが,神は世界を超越している。人はおのれが無知を自覚するとき,理性をこえる信仰に到達し,神に触れる。人を神に仲介するのはロゴスの受肉としてのキリストであり,キリストへの愛によって教会が成立するとした。教会統一に尽力した神秘主義者である反面,数学や経験的知識を重視し,個体を小宇宙とみて重視し,ライプニッツの先駆となった。主著『知ある無知』 De docta ignorantia (1440) ,『神の幻視』 De visione Dei (53) 。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

山川 世界史小辞典 改訂新版 「ニコラウスクザーヌス」の解説

ニコラウス・クザーヌス
Nicolaus Cusanus

1401~64

ドイツの哲学者,神学者。モーゼル河畔クエス(クーザ)の漁夫の子。修道士をへて1448年枢機卿,50年ブリクセン司教。晩年をローマで過ごした。中世末期の大思想家で神学,哲学,教会法学,天文学(地球自転説の承認),地理学などに優れた業績を残した。

出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報

旺文社世界史事典 三訂版 「ニコラウスクザーヌス」の解説

ニコラウス=クザーヌス
Nicolaus Cusanus

1401〜64
ドイツの神学者・哲学者・枢機卿 (すうきけい)
神秘主義の立場に立ち,神において反一致をなすと説き,ライプニッツらに影響を与えた。天文・地理学者としても多くの著述を残し,地球自転説を擁護した。典型的なルネサンス思想家とされる。

出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報

今日のキーワード

仕事納

〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...

仕事納の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android