改訂新版 世界大百科事典 「ニワトコ」の意味・わかりやすい解説
ニワトコ
elder
Sambucus racemosa L.ssp.sieboldiana (Miq.) Hara
山野のやや湿ったところに生えるスイカズラ科の落葉低木。庭木として植えられたり,切花にされる。高さ3~6m,枝には太く柔らかい髄がある。葉は羽状複葉で小葉は5~7枚。花は枝の先に多数集まって円錐状となり,長さ幅とも3~6cm,4~5月に咲く。萼裂片は著しく退化し,花冠は淡黄色,5裂し,そり返る。子房は下位で3室,各室に1胚珠が下垂する。液果は夏に赤く熟し,鳥が食べる。日本,朝鮮,中国に分布する。なお北海道のものは花序の枝に毛状突起があり,エゾニワトコvar.miquellii Nakaiとして区別され,サハリン,中国東北部などにもある。若い枝の髄は顕微鏡観察用の切片を作るピスとする。中国産のニワトコに似たS.williamsii Hanse(中国名は接骨木)の花を乾かしたものを接骨木花といい,発汗・利尿剤とし,また打身,切傷,リウマチにも効く。日本のニワトコも接骨木と呼ばれ,同様に利用される。セイヨウニワトコS.nigra L.(英名European elder,bourtree)やアメリカニワトコS.canadensis L.(英名American elder)が植物園などで栽培され,ヨーロッパでは前種の実を発酵させワインをつくる。ソクズS.javanica Reinw.ssp.chinensisは草本で,一名クサニワトコと呼ばれ,葉や根は漢方で蒴藋(さくたく)といい,消炎に効があり,リウマチや骨折の治療に用いられる。
執筆者:福岡 誠行
象徴
ニワトコ(セイヨウニワトコ)には二つの相反した象徴的意味がある。生長が早く,夏の盛りには最も勢いのよい木であることから,北欧では古くから〈不死〉の象徴とされる。そこには精霊が住み,切り倒したりまき(薪)に用いるのはタブーとされた。アンデルセンの童話《ニワトコおばさん》ではこの精霊が回春の寓意とされている。しかしキリスト教伝説では,キリストが磔刑(たつけい)にされた十字架も,裏切り者イスカリオテのユダが首をつった木も,すべてニワトコであったといい,不吉な木の一つに数えられている。また中世には魔女の木とみなされた。ときには魔女がこれに変身することもあり,ニワトコで作ったゆりかごに赤ん坊を入れると魔女にいじめ殺されるなどといわれる。しかし半面,ニワトコには大きな薬効もあって,ローマ時代以来〈歯痛から疫病まで〉の万病を治す薬としても知られてきた。18世紀のイギリスではニワトコの実の煮汁が〈ラブrob〉の名で風邪薬として売られていたほどである。花言葉は〈同情〉〈熱意〉。
執筆者:荒俣 宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報