ドイツの分析化学者ネスラーJulius Nessler(1825―1905)が発見した、アンモニアまたはアンモニウムイオンを検出または定量するのに用いられる試薬。0.2ミリグラム毎立方センチメートル以上の窒素に相当するアンモニアNH3の定量には、ネスラー試薬による方法が広く用いられている。
ネスラー試薬の調製法にはいくつかの方法があるが、JIS(ジス)(日本工業規格)で用いられている方法を示す。ヨウ化カリウム10グラムを水10ミリリットルに溶かし、これに塩化水銀(Ⅱ)5グラムを熱水20ミリリットルに溶かした溶液を少量ずつ加えてよく振り混ぜる。生じる沈殿の一部が溶けずに残る程度としたのち放冷する。これに水酸化カリウム30グラムを水60ミリリットルに溶かした溶液を加えて全量を200ミリリットルとする。さらに塩化水銀(Ⅱ)溶液1ミリリットルを加えて振り、遠心分離し、その上澄み液を用いる。褐色瓶に密栓して保存する。約1か月使用可能である。
アンモニアとは以下のように反応し、痕跡(こんせき)量では黄色を呈し、多量では赤褐色沈殿を生じる。検出限界は1立方センチメートル当り0.05マイクログラムである。
NH3+2[HgI4]2-+3OH-―→
[OHg2NH2]I+7I-+2H2O
ネスラー法は水銀塩を用いる難点があり、ピリジン‐ピラゾロン法、インドフェノール法、1-ナフトール‐次亜塩素酸ナトリウム法などでできるだけ代用するほうが望ましい。なお、ピリジン‐ピラゾロン法でいうピラゾロンは3-メチル-1-フェニル-5-ピラゾロンをさす。
[成澤芳男]
『日本分析化学会編『分析化学便覧』改訂3版(1981・丸善)』▽『玉虫文一他編『岩波理化学辞典』第3版増補版(1981・岩波書店)』▽『大木道則他編『化学大辞典』(1989・東京化学同人)』
アンモニアガス,アンモニウムイオンに対する高感度の検出,定量に使用される分析試薬の一つ。とくに微量の場合には,比色定量試薬として,上水試験用などに使われる。ネスラー試薬の調製法はいくつか知られているが,JISの方法を示す。ヨウ化カリウム10gを水10mlに溶解し,これに塩化第二水銀5gを熱水20mlに溶かした溶液を少量ずつ加えてよく振り混ぜる。生ずる沈殿の一部が溶けずに残る程度とした後,よく放冷する。これに水酸化カリウムを水60mlに溶かした溶液を加えて全量を200mlとする。さらに塩化第二水銀溶液1mlを加えて振り,遠心分離し,その上澄液を用いる。簡便には市販品を利用する方法もある。黄色澄明の液で日光によって一部分解するので,褐色瓶に入れ,暗所に密封保存する。約1ヵ月間使用可能である。アンモニアまたはアンモニウム塩の溶液を混ぜると,次の反応が起こり,少量の場合には試薬が過剰に溶けて黄褐色を呈し,多量のときは黄褐色ないし赤褐色の濁りまたは沈殿を生じる。
この反応はきわめて鋭敏で,蒸留水に含まれる程度の微量のアンモニアでも十分認められるので,こん跡量のアンモニアの検出,定量の際には,専用の比色管を用いて,なにも含まない標準検体と比較する必要がある。多量のカルシウム塩,マグネシウム塩を含むときは水酸化物の沈殿を生じて妨害するので,あらかじめ苛性ソーダを加えてこれを除くか,ロッシェル塩を加えて沈殿生成を防ぐ。
執筆者:宮本 健
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
アンモニア,アンモニウムイオンなどの検出,定量に使用される試薬.種々の製法があるが,一例をあげると,ヨウ化カリウム50 g を少量の水に溶解し,塩化水銀(Ⅱ)の飽和溶液をヨウ化水銀(Ⅱ)の濁りがかすかに生じるまで加える.この溶液に50% 水酸化カリウム溶液400 mL を加え,1 L に薄めてよく混合し,ポリエチレン製の瓶に保存する.使用のときは上澄み液を用いる.微量(ppm 程度)のアンモニウムイオンと反応し,橙色に変化する.試薬自身が強アルカリ性なので,アルカリ性溶液で沈殿を生じるようなイオンが共存するときは,試薬液を蒸留などによって分離したのち,検出,定量する必要がある.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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