ハクジラ(読み)はくじら(英語表記)toothed whale

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハクジラ」の意味・わかりやすい解説

ハクジラ
はくじら / 歯鯨
toothed whale

哺乳(ほにゅう)綱クジラ目ハクジラ亜目Odontocetiに属する動物の総称ハクジラ類と俗称される。クジラ目Cetaceaのもう一つの仲間であるヒゲクジラ亜目Mysticetiとの違いは、歯があること以外では、単一の外鼻孔、小さい鼻骨、顎骨(がくこつ)と顎間骨が顔面部を覆っていること、感覚毛を欠くことなどである。嗅覚(きゅうかく)を欠き、味覚の発達も弱い。水中では視覚が限定されるので、聴覚の発達が著しい。声帯を欠き、外耳道も皮下で閉じているが、咽頭(いんとう)か鼻道で高周波音を発し、反射音で水中の物体を探知する。この能力は、現在知られている最古のハクジラ類である第三紀漸新世のスクアロドンにも存在したようである。スクアロドンでは、すでに歯数の増加は始まっていたが、後方の歯はまだ臼歯(きゅうし)の形を残していた。その起源は、ヒゲクジラと共通で、漸新世に絶滅したムカシクジラ亜目にあると思われる。イッカク科の起源はさだかでないが、現生ハクジラ類の他の5科は、漸新世末から中新世にかけて発生した。

 6科のなかでも、マッコウクジラ科の2属3種は特殊化が著しく、頭部には巨大な脂肪組織を備える。歯はエナメル質が退化したが、摩耗につれて終生伸び続ける。上顎歯は消失ないし退化した。アカボウクジラ科は5属18種の大きなグループで、4~11メートルの中・大形種である。歯は大きく、下顎にのみ1~2対あるが、索餌(さくじ)には役だたない。イッカク科には、イッカクとシロイルカの2属2種のほかに近年は、従来マイルカ科とされることの多いカワゴンドウ属1種を含める考え方もある。なお、このカワゴンドウについてはほかに、科として独立させる立場もあった。カワゴンドウの頸椎(けいつい)は、4属5(4~6)種のカワイルカ科と同様7個すべて遊離している。ネズミイルカ科は吻(ふん)の短い小形種3属6種よりなる。歯は小さく、退化の傾向が認められる。このネズミイルカ類も分類上、独立させずマイルカ科に含める場合もある。右以外の現生ハクジラ類である17属35種以上はすべてマイルカ科に含まれる。この科は特殊化の弱い多様な種を含み、大形化と吻の短縮に進んだゴンドウクジラの系列と、小形で吻が長くなったマイルカの系列に大別できるが、中間型があって両者は連続的である。しかし、学者によってはゴンドウクジラ科を独立させ、ゴンドウクジラ、オキゴンドウユメゴンドウカズハゴンドウハナゴンドウ(マツバイルカ)、サカマタ(シャチ)などの各属を含めることもあった。

 ハクジラ類はすべて入手しやすい餌(えさ)を食べる傾向があるが、大・中形種はイカを主餌料とする。歯数の減少と深潜水の習性はこの食性と関係があると思われる。シャチはクジラやアザラシも食べる肉食種であるが、イカや大形魚も多食する。小形イルカ類は小形魚のほかにイカやエビなどの表・中層性動物を雑食する。一部ハクジラ類の特殊な社会構造は、単独ないしは親子で行動するカワイルカやネズミイルカの未分化型から、系統とは無関係に発達している。マイルカ類は数十頭以上の大群で行動し、繁殖状態や成長段階の近いものが集まる傾向がある。シャチ、ゴンドウ、マッコウクジラなどは数世代にまたがる母系集団が中心となり、これに少数の雄が加わっている。

[粕谷俊雄]

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