改訂新版 世界大百科事典 「ゴンドウクジラ」の意味・わかりやすい解説
ゴンドウクジラ (巨頭鯨)
歯クジラ亜目マイルカ科ゴンドウクジラ属Globicephalaに属する哺乳類の総称。現生は2種。日本で昔からマゴンドウあるいはナイサゴトウ,シオゴトウ,タッパナガなどと呼ばれた種類はすべてコビレゴンドウG. macrorhynchus(英名short-finned pilot whale)である。頭部が大きく太鼓のようなので,この名がある。世界の温帯,熱帯の海に広く分布するが,各地に地方型が知られている。日本近海では銚子以南には“マゴンドウ”と呼ばれる型が分布する。成体の平均体長は雌で3.6m,雄では4.8mである。雄の頭部前面は平らである。口は大きく,直径1.5cmくらいの歯が上下左右それぞれ6~9本ある。背びれは幼体ではふつうのイルカに似るが,成体では幅が大きくなる。胸びれは体長の15~19%。体色は背びれの後方と両胸びれの間の胸部に淡色域があるほかは全身黒褐色。交尾は一年中行われるが,盛期は4~5月,約15ヵ月の妊娠期間の後,体長140cmほどの子を生む。1産1子。生後半年で餌をとり始め,完全に離乳するには2~3年,まれには10年を要する。雄は平均16歳で成熟し,最高45歳まで生きる。これに対して,雌は平均9歳で成熟したあと,36歳までに最後の出産をすませ,最高62歳まで生きる。このため,群れのなかには雄に比べて雌が多い。このように20年以上におよぶ長い老年期をもつ種は野生動物ではまれで,母系的な群れ社会の形成に伴って発達したと考えられている。20~30頭の群れで行動し,主としてイカを餌とする。日本では,沖縄・紀州・伊豆方面で追込漁法で年間数百頭が食用に捕獲されている。本種にはほかに“タッパナガ”と呼ばれる地方型が銚子から北海道にかけての太平洋沿岸に分布する。これは“マゴンドウ”より1~2m大きく,頭部前面はまるみがあり,背びれの後ろの鞍形斑が目だつ。交尾期が秋にあるほかは“マゴンドウ”と生活史の特徴は違わない。日本海にはコビレゴンドウは比較的まれである。本属にはこのほかにヒレナガゴンドウG. melaena(英名long-finned pilot whale)がある。南北の両寒冷域に分布する。礼文島の10~12世紀の遺跡からは頭骨が出土しているが,北太平洋では絶滅したとされている。体長は4.5m(雌)~6m(雄)で,胸びれは体長の22~27%と前種よりも長い。ハナゴンドウ(全長3m),オキゴンドウ(全長5.5m)なども暖海性のマイルカ科の仲間で,頭部が大きくまるいので,ゴンドウクジラ類とも称されるが,それぞれ別属の種類である。
→クジラ
執筆者:粕谷 俊雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報