バイオパイラシー(英語表記)biopiracy

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

バイオパイラシー
ばいおぱいらしー
biopiracy

生物資源の海賊行為を意味する造語。バイオテクノロジーの進展を背景に、食品や医薬品、化学薬品などに利用される動植物や微生物など、特定の遺伝子をもつ生物資源や、人が利用するための伝統的知識traditional knowledgeが、保有国から無断で収集されて持ち出されたり、その利益が独占されたりすることをさす。misappropriation(不適切な利用)ともいう。たとえば、先進国の企業や研究者が、開発途上国の生物資源や先住民のもつ伝統的知識を手に入れ、それを基礎材料とすることで薬品などの研究開発にかかる莫大(ばくだい)な費用や時間を節約できたにもかかわらず、その研究や分析で得られた結果を特許化し、独占してしまうといったことである。バイオパイラシーという呼称は、生物資源における先進国と開発途上国間での対立が深刻化する状況を表すため、カナダで環境保護に取り組む非営利組織ETCグループがつくったとされている。インドの科学者で環境活動家バンダナ・シバVandana Shiva(1952― )はこのことばを使い、先進国による生物資源の略奪行為は新たな侵略行為であると強く主張した。これがバイオパイラシーという呼称を世界的に広めるきっかけになった。
 よく知られている事例としては、1990年代のインドで、伝統的に薬品などに使われていたターメリックやニーム(インドセンダン)についての特許登録が外国企業によって行われたため、植物の商業利用に混乱をきたす事態に陥ってしまったことがある。そのため、インドでは2002年ころからインド伝統知電子図書館(TKDL:Traditional Knowledge-Digital Library)を設置し、伝統的知識のデータバンク化を世界で初めて進めることになった。しかし、インド以外にも生物資源や伝統的知識を一方的に持ち出されている途上国は数多く、本来の所有者や原産国としての不満が強く残っている。
 国連は1993年に採択された生物多様性条約(CBD)のなかで、生物資源とそこに含まれる伝統的知識に高い経済的価値があることを認め、調印各国に生物多様性の保全と同時に、先住民のもつ知識や慣行を尊重し、利益を公正に配分するよう促した。さらに、2010年に締結された生物多様性条約の名古屋議定書では、生物資源や伝統的知識の開発で得られた利益の配分方法を規定した。規定では資源の開発を許可する権限は先住民族が所属する国の判断にゆだねられたものの、具体的に先住民族のもつ伝統的知識の利用に関して規制などを定めた国は少ないのが現状で、十分に機能しているとはいえない状況にある。同議定書は2014年10月に締結国が50か国に達し、発効した。しかし、取りまとめの議長国であった日本ですら産業界と調整がつかず、具体的な国内措置が定まっていない。[編集部]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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