翻訳|pandemic
ギリシャ語のパン(全ての)とデモス(人々)が語源の英語で、世界中の人に感染する可能性がある病気が、制御不能で大規模に流行している状態。世界保健機関(WHO)はインフルエンザについてのみ用い、流行が進むに従い「パンデミック期」に入ったと宣言し、ワクチン増産を促す狙いがある。新型コロナウイルス感染症では、1月30日に発した緊急事態宣言が最高度の警報で、現行規定ではこれを上回る「パンデミック宣言」は存在しない。(ジュネーブ共同)
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感染症が世界的規模で流行すること。「感染爆発」(アウトブレイク)が長期間に多数の国、地域で連続的に起きる場合をいう。世界保健機関(WHO)は感染症の警戒レベル(フェーズ)を6段階に分け、各国に対策の目安を示しているが、それによるとパンデミックは、最大警戒レベル「フェーズ6」に相当する。これは世界6地域(日本を含む西太平洋、アメリカ、アフリカ、ヨーロッパ、中東、東南アジア)の一つで集団発生した後、他地域でも集団発生した場合、規模を勘案して判定する。2002~2003年の新型肺炎SARS(サーズ)(重症急性呼吸器症候群)は西太平洋(中国、ベトナムなど)とアメリカ(カナダ)で集団発生したが、規模などからパンデミックとはされなかった。
歴史的なパンデミックは14世紀ヨーロッパのペスト、19世紀のコレラ、1918~1919年のスペインかぜ(豚インフルエンザ)などである。ペストはもともとネズミなど齧歯(げっし)類の流行病であり、ネズミに寄生するノミなどの媒介によってヒトに感染する。菌が血液中に増加する敗血症で発熱、悪寒、痛みがひどく、死亡率は高い。皮膚は黒ずみ、黒死病とよばれた。また一部タイプは肺炎を起こし、咳(せき)から大量の菌が周囲に拡散し、感染を広げる。14世紀なかばから末までのヨーロッパの流行は死者2000万人から3000万人で人口の半分近くに達したといわれている。ペストは6世紀と19世紀にもパンデミックがあった。
コレラはやや小規模だが19世紀から7回のパンデミックが起きている。コレラ菌が水や食品を汚染し、集団発生する。激しい下痢、脱水症状で死亡する。江戸時代には日本でも大流行したが、コッホによるコレラ菌の発見で下火になった。とはいえアフリカでは現在も流行している。
インフルエンザは飛沫(ひまつ)・空気感染のため、感染力はペストやコレラを上回る。第一次世界大戦中のスペインかぜが近年では最大、最強のパンデミックだった。スペインかぜは豚インフルエンザ(H1N1型)が人間への感染力を獲得したものとされ、6億人がかかり、死者4000万人といわれる。日本でも2500万人が感染し、40万人が亡くなった。
2009年4月に発生した「新型インフルエンザ」(豚インフルエンザ)は、メキシコからアメリカ、ヨーロッパ、オーストラリアなどに広がり、WHOは6月11日、「フェーズ6」を宣言した(2009年11月22日時点で、207以上の国・自治領・地域で、感染者62万2482例以上、死亡者7826例以上。毒性は通常のインフルエンザ並み)。なお、1997年に香港から小規模の感染が始まった強毒タイプの鳥インフルエンザ(H5N1)でもパンデミックがおこり、世界中で恐れられた。
[田辺 功]
『マイク・デイヴィス、柴田裕之・斉藤隆央訳『感染爆発――鳥インフルエンザの脅威』(2006・紀伊國屋書店)』▽『岩崎惠美子監修、佐藤元編『新型インフルエンザ――健康危機管理の理論と実際』(2008・東海大学出版会)』▽『アルフレッド・W・クロスビー著、西村秀一訳『史上最悪のインフルエンザ――忘れられたパンデミック』新装版(2009・みすず書房)』▽『小林照幸著『パンデミック――感染爆発から生き残るために』(新潮新書)』
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(小林千佳子 フリーライター / 2009年)
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