デジタル大辞泉
「コロナウイルス」の意味・読み・例文・類語
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コロナウイルス
表面に突起があり王冠(ギリシャ語でコロナ)に似ていることから名付けられたウイルス。人に感染するものは風邪の原因となる4種類が知られていたが、今世紀に入り重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)両ウイルスが見つかった。新型コロナウイルス感染症(COVID19)は1週間ほど風邪に似た症状が続いた後で急速に重症化する傾向があるが、8割は無症状か軽症で回復。いずれのコロナウイルスに対しても、これまでにワクチンが開発されたことはない。(ジュネーブ共同)
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コロナウイルス(コクサッキーウイルス,エコーウイルス,エンテロウイルス)
(4)コロナウイルス(coronavirus)(SARS-CoVを含む)
概念
ヒトコロナウイルス(human coronavirus:HCoV)は,かぜ症候群(普通感冒)の病原微生物としてライノウイルスについで頻度の高いウイルスである.すなわち,鼻汁や咽頭痛などの症状が1週間前後で自然に軽快する,予後良好な疾患を引き起こすウイルスとして認識されてきた.しかし,2003年の冬から春にかけて世界中で流行して多数の死者を出した重症急性呼吸器症候群(severe acute respiratory syndrome:SARS)の原因微生物が,新型のコロナウイルス(SARS-CoV)であることが証明されて一気に注目が集まった.その後,SARSの発生は報告されていないが,引き続き注意が必要である.
病因
コロナウイルスは,コロナウイルス科に属するプラス一本鎖RNAウイルスである.ウイルス粒子は直径100〜200 nmの楕円形ないし不整形で,表面に特徴的な“王冠”様のスパイクをもつエンベロープを有することから“コロナ”ウイルスと命名されている.動物のコロナウイルスには多くの種類があり,ブタなどの家畜やペット,家禽類などの動物に呼吸器系以外にも消化器系や神経系の病気を引き起こす.従来ヒトから分離されていたのはHCoV-229EとHCoV-OC43の2種類で,いずれもかぜ症候群の原因ウイルスとして知られていた.コロナウイルスは,血清型によって3群に分類されており,HCoV-229EはI群に,HCoV-OC43はⅡ群に属している.
SARS-CoVは,ウイルス遺伝子の解析結果よりこれまで分類されている3群のいずれとも異なる新型のコロナウイルスであることが証明された.すなわち,既知のコロナウイルスの間で遺伝子組換えが生じたのではなく,まったく新たなコロナウイルスがヒトの病原体として登場したと考えられている.自然宿主は野生のコウモリであるとする説が有力であり,これが動物市場で広がった後にヒトへ感染したと考えられている.ヒト-ヒトの感染環が成立するために,どのような適応変化を起こしたのかについてはよくわかっていない.
2004年以降に新たに発見されたヒトコロナウイルス(HCoV-NL63・HCoV-HKU1)は,上気道炎および下気道炎を引き起こすことが報告されている.
疫学
ヒトコロナウイルス(HCoV-229E/OC43)は,世界中に分布しているかぜ症候群の原因ウイルスである.季節的には冬から春にかけて流行のピークがある.感染は全年齢層において繰り返し起こり,成人におけるかぜ症候群の原因の約15%を占めている.感染経路は飛沫感染および接触感染である.
SARS-CoVによる重篤な急性感染症は,2002年11月頃に中国広東省で突如発生し,2003年2月下旬より世界的なアウトブレイクを起こした.全世界で総数8096例のSARS可能性例と774例の死亡者(死亡率9.6%)が集計されたが,各国の医療機関における感染制御対策が功を奏して2003年7月以降,流行は終息した.日本国内の患者発生はみられなかった.2004年4月に中国でみられた実験室感染事例後は,2012年現在に至るまでSARSの発生報告はない.感染経路はおもに飛沫感染と接触感染であるが,空気感染や糞口感染も起こり得ることが示されている.
病理
SARSの剖検肺における病理学的特徴は,間質へのリンパ球およびマクロファージの浸潤と肺胞における硝子膜形成であり,びまん性肺胞傷害(diffuse alveolar damage:DAD)の組織所見を呈する.
臨床症状
ヒトコロナウイルス(HCoV-229E/OC43)感染症による症状は,鼻汁や咽頭痛を主体とする上気道炎症状であり,しばしば全身倦怠感や頭痛を伴う.潜伏期間は平均約2日間である.咳は約30%に,微熱は約20%に認められる.通常は約1週間で改善するが,鼻汁のみが数週間以上遷延することもある.特に小児や高齢者においては肺炎などの下気道炎へ進展する場合がある.他覚症状としては,咽頭や鼻腔粘膜の発赤・腫脹がみられる. SARSの臨床症状は,初発症状として38℃以上の発熱がほぼ全例に出現し,悪寒や頭痛,筋肉痛などのインフルエンザ様症状を伴うことが多い.鼻汁や咽頭痛などの上気道炎症状は通常みられない.潜伏期間は通常2〜10日間である.発症後,3〜7日後にほとんどの症例で乾性咳が出現し,60〜80%の症例で息切れが出現する.その後,20〜25%の症例で呼吸不全が増悪して急性呼吸促迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS)の病態に陥り,その約半数,全体の約10%が死亡する.消化器症状として約25%の症例で水様性下痢がみられる.予後不良の因子としては高齢や基礎疾患(糖尿病,B型肝炎)などが指摘されており,65歳以上の高齢者の死亡率は約50%ときわめて高い.小児を含めた若年者の予後は比較的良好で,24歳未満の死亡率は1%未満である.
検査成績
ヒトコロナウイルス(HCoV-229E/OC43)感染症における特異的な臨床検査所見はない. SARSでは,ほぼ全例において発症10日目前後よりリンパ球減少(<1000 cells/μL)がみられ,特にCD4リンパ球が著明に低下する.約半数の症例では,軽度の血小板減少がみられる.生化学検査所見では,LDHおよびトランスアミナーゼの上昇や電解質異常などが認められる.胸部画像所見では,初診時に70〜80%の症例で,その後の経過中にほぼ全例において何らかの異常がみられる.典型的には片側の肺野末梢優位に比較的限局した斑状影から始まって,多発性ないし両側性の浸潤影およびすりガラス状影に進展する.陰影の範囲は病勢の悪化と相関する.
診断
ヒトコロナウイルス(HCoV-229E/OC43)感染症は,通常かぜ症候群として臨床的に診断されている.簡易迅速診断キットは使用されていない.ウイルス分離やPCR法などによる核酸検出,血清抗体価測定などは日常臨床で利用されることは少ない.
SARSについては迅速な診断がきわめて重要であり,先の流行時にはWHO(世界保健機関)によってSARS疑い例および可能性例の届け出のための症例定義が行われた.非流行期においては,同一の医療機関内で短期間内に,複数の医療従事者がSARSに矛盾しない臨床像を呈した場合などをSARSアラートとして対応することが提唱されている.病原診断としてはRT-PCR法やLAMP法などを用いた遺伝子診断が最も高感度で迅速である.ウイルス分離も可能であるが,感度が低く時間を要する.血清学的診断に関しては,発症10日目以降にIgM抗体を,発症21日目以降にIgM・IgG抗体を,ELISA法などを用いて検出できる.SARSは感染症法の二類に指定されており,診断した医師は直ちに保健所に届出義務がある.
鑑別診断
ヒトコロナウイルス(HCoV-229E/OC43)によるかぜ症候群の症状は,ライノウイルス感染症と非常に類似している.インフルエンザやRSウイルス感染症よりは一般的に軽症である. SARSの鑑別診断としては,インフルエンザなどによるほかのウイルス性肺炎や,レジオネラ肺炎やマイコプラズマ肺炎,クラミジア肺炎などの非定型肺炎との鑑別が重要である.
合併症
ヒトコロナウイルス(HCoV-229E/OC43)の感染によって,気管支喘息や慢性気管支炎の急性増悪がみられる場合がある.細菌の二次感染による中耳炎や副鼻腔炎も起こり得る.また,壊死性腸炎や多発性硬化症などとの関連も示唆されている.
治療・予防
ヒトコロナウイルス(HCoV-229E/OC43)感染症およびSARSに対する特異的な治療薬や有用性が確立したワクチンはない.SARSの治療に関しては,先の流行時に経験的に使用されたステロイドやインターフェロン,プロテアーゼ阻害薬などの有効性についてはさらなる検証が必要である.また,SARS-CoVの標的細胞の特異的受容体であるangiotensin-converting enzyme 2(ACE-2)やプロテアーゼなどの酵素を標的とした特異的な薬剤の開発についても検討されている.
SARSが再流行した場合には患者多発地域からの帰国者を一定期間,経過観察するなどの対応や,院内感染の拡大を防ぐために,手洗いやグローブ着用のほか,N95マスクの使用などを含めた厳重な感染予防対策が必要である.[藤井 毅]
■文献
Mcintosh K, Perlman S: Coronavirus, including severe acute respiratory syndrome (SARS)-associated coronavirus. In: Principles and Practice of Infectious Disease 7th ed (Mandell GD ed), pp2187-2194, Churchill Livingstone, New York, 2010.Perlman S, Netland J: Coronaviruses post-SARS: update on replication and pathogenesis. Nat Rev Microbiol, 7: 439-450, 2009.
Stadler K, Masignani V, et al: SARS-beginning to understand a new virus. Nat Rev Microbiol, 1: 209-218, 2003.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
コロナウイルス
coronavirus
コロナウイルス科に分類されるウイルス。呼吸器や胃腸に疾患をもたらす風邪のウイルスとして知られ,症状の多くは軽い。しかしいくつかの種は,ときには死をもたらす重症肺炎を引き起こす。ヒトだけでなく,家禽やウシにも感染する。
コロナウイルスは球形で,直径はおよそ 100nm。ウイルスの中核部には蛋白質(カプシド)に結合した,遺伝物質であるリボ核酸 RNAが収められ,その外側を蛋白質と脂質でできた膜(エンベロープ)が覆う(→RNAウイルス)。エンベロープの表面には,棍棒のような形をした突起蛋白質(スパイク)が多数飛び出ていて,電子顕微鏡で見ると,まるで太陽のコロナのようであることからこの名前がつけられた。
これまでコロナウイルスは,感染率の高い重い呼吸器疾患の流行を引き起こしてきた。その一つに重症急性呼吸器症候群 SARSがある。SARSに特徴的な症状には発熱や咳(→咳嗽),筋肉痛があり,しばしば進行性の呼吸困難を伴う。SARSを引き起こしたウイルスは 2002年にヒトで見つかり,2003年に流行が起こった。中国や香港を中心に,8000人をこえる感染者が報告され,約 800人が死亡した。SARSウイルスは,キクガシラコウモリからヒトにうつったとみられている。動物からヒトへの感染は,ウイルスの遺伝子が変化した結果として起こる(→変異)。キクガシラコウモリの体内にあるウイルスは直接ヒトに感染できないことから,遺伝子の変化は,ハクビシンの体内で起こったと推測されている。
2012年には,ヒトで深刻な急性呼吸器疾患を引き起こすもう一つのコロナウイルスが見つかり,のちにその感染症は中東呼吸器症候群 MERSとして知られることになった。最初の感染はサウジアラビアで見つかり,すぐにヨルダンやアラブ首長国連邦を含む中東の国々でも確認された。その後,ヨーロッパやチュニジア,中国,マレーシア,大韓民国(韓国),アメリカ合衆国にも感染が広がった。確認された感染者はみな,直接もしくは間接的に中東と関係があり,感染者の約 3分の1が死亡した。MERSコロナウイルスは,コウモリ起源のコロナウイルスと似た特徴があったことから,コウモリからラクダなどの動物への感染が起こり,ヒトへの感染につながったと考えられている。
2019年後半,SARSウイルスにとてもよく似た新型コロナウイルス SARSコロナウイルス2 SARS-CoV-2; severe acute respiratory syndrome coronavirus 2が中国の武漢市に現れた。このウイルスが引き起こす疾患は COVID-19と命名された。症状も SARSに似ており,発症初期には発熱と乾いた咳の症状が出て,重症の場合は呼吸困難に陥る。SARS同様,感染率は高い。2020年初めまでに中国全土に広まり,感染地域からの旅行客によって運ばれることで,まもなく南極大陸を除くすべての大陸に感染が拡大した。2020年1月30日,世界保健機関 WHOは「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言,同 3月11日には世界的に大流行しているとしてパンデミック状態にあるとの見解を示した。緊急事態の終了が宣言された 2023年5月5日までに世界で約 7億6500万人の感染が確認され,約 692万人が死亡した。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
コロナウイルス
ころなういるす
Coronavirus
コロナウイルス科に属するRNAウイルス。1965年にかぜ患者からみつかった。直径80~160ナノメートル(ナノは10億分の1)で、ウイルスとしては大型の部類である。コロナとは太陽表面の光冠のことで、王冠も意味する。球形で周囲に先端が丸くなったスパイク状のとげがある形がコロナを連想させることから命名された。哺乳(ほにゅう)動物や鳥類に感染するそれぞれ固有のウイルスがいる。ニワトリとラットに感染するものは人間同様に呼吸器症状が中心のかぜウイルスであるが、ウシ、ブタ、イヌなどに感染するものは胃腸炎をおこす。
人間に感染するコロナウイルスは血清型で少なくとも4タイプに分かれる。感染については子どもは少なく、成人が中心で、冬のかぜの10~25%はコロナウイルスが原因といわれる。ボランティアによる接種実験では、2~4日の潜伏期の後、鼻汁、鼻づまり、くしゃみ、のどの痛みなどがおこるが、熱はあまり高くならず、6~7日で回復する。
重症急性呼吸器症候群(SARS(サーズ))の原因として新型のコロナウイルスが特定されたが、このウイルスは高熱、さらには肺炎に進行し、比較的健康な人でも死亡することから、これまでのコロナウイルスの性質とは大きくかけ離れている。世界保健機関(WHO)は2003年4月、この新型のコロナウイルスをSARSコロナウイルスと命名した。コウモリコロナウイルスが変異し、ハクビシンなどの動物を経て人に感染するようになったと考えられている。2002年から2003年にかけ8098人に感染、774人の死者が報告された。
また、2012年には、中東呼吸器症候群(MERS(マーズ))の原因としてSARSコロナウイルスと近縁の新種であるMERSコロナウイルスがみつかった。やはり別種のコウモリからみつかっており、コウモリまたはラクダを介しての感染が疑われている。濃厚接触感染のため、SARSコロナウイルスに比べると感染力は低い。
[田辺 功]
さらに2019年末には、中国・湖北(こほく)省武漢(ぶかん)市で原因不明の肺炎患者が発生し、のちに新型のコロナウイルスが原因であると判明した。このウイルスはSARS-CoV2(サーズコブツー)と命名された。SARS-CoV2による感染症はWHOにより「COVID(コビッド)-19」と名づけられ、その後世界中に広がるパンデミックに至った。日本では「新型コロナウイルス感染症」とよばれ、2023年(令和5)5月8日までに3380万人以上の感染者、7万人を超える死者となり、社会的にも甚大な影響が出た。なお世界で報告された感染者数は2023年9月24日時点で7億7000万人を超え、死者は695万人以上となっている。
[編集部 2024年11月18日]
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