改訂新版 世界大百科事典 「ヒトリガ」の意味・わかりやすい解説
ヒトリガ (灯蛾)
garden tiger moth
Arctia caja
鱗翅目ヒトリガ科の昆虫。大型のガで翅の開張6cm内外。前翅は黒褐色で,白帯が網目状にあり,後翅は腹部とともに鮮紅色,青色を帯びた黒紋が5~6個ある。ヨーロッパから日本まで広く分布し,日本では北海道と本州の寒冷地に産する。8~9月に出現し,灯火に飛来する。幼虫は多食性で,クワ,ニワトコ,そのほか雑草につく。体は黒く,長毛に覆われ,老熟したものが蛹化(ようか)の場所をさがすため,地上を歩く姿がイギリスではごくふつうに見られるので,woolly bearと呼ばれている。日本では,この種類はあまりおらず,日本でクマケムシと呼ばれている毛虫は,同じように雑草を食べるシロヒトリSpilosoma niveumの幼虫のことで,この種では,黒毛の先がヒトリガと違って白い。成虫は体翅とも純白で,腹部背面に黒紋を連ね,側面が赤い。
ヒトリガ科Arctiidaeは,大型から小型種を含む大きな科で,世界に約1万種,日本には100種あまり知られている。成虫は白色,赤色,黄色などたいへんはでな色彩のものが多く,体液がにがいためか,食虫性の鳥獣が敬遠してあまり捕食しない。なかには食虫性のコウモリの出す超音波を妨害するための超音波を発して,コウモリの攻撃をのがれる種もあるし,胸部から体液を分泌する種もある。幼虫はすべて毛虫で,一部のグループでは毒針毛をもち,人の皮膚に刺さると発疹ができることもある。樹木や草木の害虫も少なくない。
執筆者:井上 寛
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報