非ベンゼン系芳香族化合物の一つ。β(ベータ)-ツヤプリシン、4-イソプロピルトロポロンともいう。
非ベンゼン系芳香族化学の歴史のなかで特別の意義をもつ化合物である。天然物としてタイワンヒノキ、ニオイヒバ、アスナロなどの精油中に含まれる。これらの心材の赤みの色素は、ヒノキチオールの鉄キレート塩であるヒノキチンといわれる。1935年以来、台北帝国大学(当時)の野副鉄男(のぞえてつお)によって徹底的に研究され、1940年ごろにその構造が解明され、1950年には東北大学において合成にも成功した。その間、フェノールに類似の芳香族置換反応が解明され各種の置換体が合成されたほか、安息香酸への転位反応がみいだされた。
殺菌、抗菌性があり、これを含む樹木は腐敗しにくい。異性体のα(アルファ)-およびγ(ガンマ)-ツヤプリシンも天然物として精油中に存在する。
[向井利夫]
2-hydroxy-4-isopropyl-2,4,6-cycloheptatrien-1-one.C10H12O2(164.20).4-イソプロピルトロポロンともいう.タイワンヒノキChamaecyparis taiwanensisの精油の酸性成分から単離されたので,この名称が与えられたが,ヒバなどの精油中にも見いだされている.無色の柱状結晶.融点52~53 ℃,沸点140 ℃(1.3 kPa).1.094.1.607.pKa 7.21.λmax 236,322,353 nm(log ε 4.37,3.72,3.66).鉄(Ⅲ)錯体は暗赤色の結晶.融点250~251 ℃.銅(Ⅱ)錯体は緑色の結晶.融点177~178 ℃.親電子試薬は3,5および7位に反応して種々の置換体を与える.[CAS 499-44-5]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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