改訂新版 世界大百科事典 「ビーダーマイヤー」の意味・わかりやすい解説
ビーダーマイヤー
Biedermeier
1815年から48年までの〈復古期〉におけるドイツとオーストリアの家具調度,美術,文学等の様式,ならびにその時代の小市民的な生活感情を示す言葉。元来は,1855年頃ミュンヘンの文芸紙に風刺的な詩を連載したクスマウルAdolf Kussmaul(1822-1902)とアイヒロートLudwig Eichrodt(1827-92)が,その詩の架空の作者の名前として創作したものであった。〈正直者〉の意を内包するこの語はその後やや嘲笑的ニュアンスで用いられたが,1900年から家具調度の分野で,ナポレオン時代の装飾的で力強いアンピール様式に対し,それ以後の簡素で実用的な家庭的温かみのある様式を示す言葉として使われ,10年頃にはナポレオン以後三月革命までの時代全体を指す用い方がなされるようになった。この時期にはメッテルニヒの指導のもとに全ヨーロッパで反動的な復古政治が推進され,特にその膝元のオーストリアとドイツ諸国では,権力の重圧のもとで,多くの市民は政治に背を向け,牧歌的調和的な自己充足の生活に逃避したのである。こういう小市民的ないしは俗物的な生活態度を示す言葉として〈ビーダーマイヤー〉が用いられる場合,時に蔑視的意味合いを帯びることもある。美術史においては,リヒターLudwig Richter,シュウィント,シュピッツウェークに代表される,極めて写実的に牧歌的情景を描く風俗画的傾向を指すものとして,20年代から使われるようになった。そして30年代になると文学史概念としても用いられるようになり,ここではその適用範囲をめぐって種々の論争が行われたが,一般にはグリルパルツァー,メーリケ,ドロステ・ヒュルスホフ,シュティフター等,保守的内向的な一面は持つけれども,写実主義文学への道を準備する新しい文学表現を開拓した一群の作家たちと理解されている。しかし〈ビーダーマイヤー時代〉という概念を導入して,反体制的なハイネや〈青年ドイツ派〉の作家たちも含め,この時代のドイツ文学全体を定義しようとする考え方もある。
執筆者:石井 不二雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報