改訂新版 世界大百科事典 「フウロソウ」の意味・わかりやすい解説
フウロソウ (風露草)
crane's bill
Geranium
薬草のゲンノショウコや高山植物のハクサンフウロなどを含むフウロソウ科フウロソウ属Geraniumの総称であり,特定のどの種をさすかは明らかでないが,時にゲンノショウコをさすこともある。日本では12種が野生し,2,3種が帰化植物として入っている。
草本で,茎や葉は,普通は毛でおおわれている。葉は掌状で,3~7裂に深くきれこみ,長い葉柄の基部には托葉がある。葉の形やきれこみ方は特徴があり,種を見分けるのに役立つ。花は両性花で,花茎の先に2個(まれに1個)ずつつく。花弁は5枚で,基部は離れており,1枚ずつ落ちやすい。萼片は5枚で,種子がとんだ後も残っている。花の大きさに二つのグループがあり,直径1cm前後の小さいものと,2.5~4cmの大きいものとがある。同時にこのグループは,花柱の先端の離れている部分の長さに,違いがある。すなわち,柱頭の離生部は,花の大きいグループでは5mm前後,花の小さいものでは1~3mmである。果実は熟すと,種子を含んでいるくちばしの部分が,後ろに巻き上がり,みこしの屋根のような形になる。果実が終わる頃から,葉や茎は紅葉することが多い。
大きい花のグループのものが,日本に7種野生する。代表的なものがハクサンフウロG.yesoense Fr.et Sav.var.nipponicum Nakaiで,本州中部以北の高山に生育する。茎は少し地をはってから立ち上がり,葉はきれこみが深く,花は紅紫色で,7~8月頃に咲く。北海道の海岸に多く,ハクサンフウロより全体に毛の多いものは,エゾフウロG.yesoense Fr.etSav.として区別される。いずれも大きな群落を形成するので,見つけやすい。ハクサンフウロの名前は,石川県の白山に産するので名づけられた。西南日本の山地草原にはイヨフウロG.shikokianum Matsumuraがあり,ハクサンフウロと似ているが,分布域は重ならない。関東,中部地方,九州などの高原にみられるタチフウロG.krameri Fr.et Sav.は,葉が少し厚くざらざらし,淡紅色の花をつける。あまり大きい群落にはならず,数本ずつ離れて生育することが多い。茎頂に十数個の花が集まってつき,茎が直立していて,他種と区別しやすいのは,グンナイフウロとチシマフウロである。グンナイフウロG.eriostemon Fisch.var.reinii Maxim.は葉のきれこみがやや浅く,花は淡紫色で,少しうつむいて咲く。花期は6~7月で,他種よりやや早い。中部地方の山地に主として分布する。和名は山梨県郡内地方に産するのでつけられた。チシマフウロG.erianthum DC.は東北北部や北海道の山地に産する。
花の小さいグループにはゲンノショウコ,イチゲフウロ,ヒメフウロなど5種がある。近年,帰化して,河原や田んぼのあぜ道などに群生するアメリカフウロG.carolinianum L.は,1cm前後の淡紅色の花をつける。花期は春~秋で,果実の頃には赤く紅葉する。北アメリカ原産で,今や全国的に広がりつつある。
フウロソウ科は世界に5属約700種があり,主として温帯に分布する。多数の種が観賞用にロックガーデンに植えられたり,山草として栽植される。日本ではフウロソウ属だけが野生するが,園芸品として,テンジクアオイ属Pelargoniumもゼラニウム(フウロソウ属ではない)などの名で,数種がヨーロッパをはじめ世界各地,日本でも広く栽培される。花期が長いので観賞用として楽しまれている。また,ゲンノショウコや中国にも産するイチゲフウロは下痢止めなどの薬草として使用される。
執筆者:清水 満子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報