改訂新版 世界大百科事典 「フォルスター」の意味・わかりやすい解説
フォルスター
Johann Georg Adam Forster
生没年:1754-94
ドイツ啓蒙主義後期の知識人。ダンチヒ(現,ポーランド領グダンスク)近郊の生れ。J.クック船長の航海に同行,《世界周航》(英文。1777)を著す。《ニーダーラインの展望》3巻(1791-94)では鋭い観察眼をもって各地の風景,地誌,文化のほか,フランス革命の余波に揺れる政治情勢をも記す。革命支持派としてマインツのジャコバン・クラブに参加(1792),革命下のパリに赴き,その情勢をドイツに伝え,革命の意義と必然性を説くが,同地で客死。当代一流の自然科学者でもあり,その旅行記は地理学,文化史,文化人類学などの発展に寄与した。
執筆者:高橋 輝暁 フォルスターの大成に大きい感化を与えたものに,同じく自然研究家として著名な父ヨハン・ラインホルト・フォルスターJohann Reinhold Forster(1729-98)がいる。ロシア・イギリス旅行も,世界周航も父子で行を共にした。ゲオルクがロシア旅行でリンネの〈体系〉にふれ,自然史に開眼したのも,ラインホルトの示唆による。《世界周航》は,ドイツ語に訳され(1778-80),1883年ゲオルクによって増補された。いわゆる〈フォルスター的思考〉は,父子一体の経験と観察にもとづく部分が少なくない。その影響は近代地理学の成立期にとくに目だつ。A.vonフンボルトは,90年,マインツからオランダ,イギリスへ旅行したゲオルクに同行して感銘をうけた。ゲオルクの《ニーダーラインの展望》をはじめ自然的世界誌ともいうべき諸著は,フンボルトの《コスモス》の先蹤となる。1843年刊の全集に続いて,日記・手紙類を含む新しい全集が,1958年ベルリン・ドイツ科学院から出版された。
執筆者:水津 一朗
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報