政治の現実や理念に関する哲学的考察をさすものであるが、とくに政治科学、つまり科学としての政治学と区別して用いられる。しかし一般的には、広義の政治学、つまり政治に関する学問のなかに含められ、政治思想や政治学説と同じ意味に用いられるか、でなければ、それらの内容と重なるところが多い。さらに政治哲学といっても、厳密に哲学的な考察にとどまらず、時代をさかのぼればさかのぼるほど宗教や倫理の立場からする政治の考察もこれに含まれる。政治(科)学が実証的・分析的であるのに対して、政治哲学は政治的事象や理念の本質的・批判的・総合的考察を特徴とし、一定の世界観的立場や価値および規範の理念に基づいて考察されることが多い。いわゆる政治的イデオロギーは、そのうちに政治哲学的な部分を含むが、政治的イデオロギーが全体として政治哲学的考察と批判の対象になることが多い。
近年、政治に関する実証的・科学的分析が、とくに行動論behavioralism的立場から強調されるに及んで、政治哲学的考察はあまり学問的関心をよばなくなった。さらに、「脱イデオロギー化」や「イデオロギーの終焉(しゅうえん)」が叫ばれる現代の風潮のなかでは、政治的イデオロギーに対する批判的省察も影を潜め、政治哲学の没落がささやかれるようになった。こうした状況のなかで、政治に関係する哲学的考察が依然、重要視されている領域としてかろうじて残ったのは科学方法論methodologyに関する哲学的考察であった。科学で用いられる方法の妥当性、その有効性と限界に関する議論は、科学的考察の領域を越えた哲学的考察に属する。
けれども最近、行動主義的科学に対する反省がおこってくるにつれて、政治における理念や価値の問題が見直されるようになり、いわゆる「脱行動論的革命」(D・イーストン)が叫ばれるようになってから、ふたたび政治哲学に対する新たな関心が呼び起こされるようになり、「政治哲学の復権」がしきりといわれている。この場合の政治哲学は、行動主義の立場などに対する批判としても現れているが、とりわけ、「正義」や「自由」に対する新たな関心と展開がみられる。さらに現代国家における人間の運命と状況に対する哲学的考察から、人間と国家の未来に関する省察など、政治哲学はふたたび活発な活動を展開し始めている。そして政治の哲学と科学との新しい総合が、実践を導くものとして求められている。
[飯坂良明]
人間の共同の営みとしての政治に関する基本的な原理を究明しようとする学問。国家を含む共同体を対象とする点で国家哲学よりも広い概念であり,また,政治現象一般の反省の学である点で,実証的な政治科学political scienceとは範疇(はんちゆう)的に区別される。大別して,政治の普遍的な存立根拠を問う政治本質論,政治を規制する目的や価値を問題にする政治価値論,政治現象への接近方法を吟味する政治学方法論などからなるといえるが,政治哲学一般は存在しない。それぞれの政治哲学は,政治現象の学的自覚化である点で共通性をもつとはいえ,なお,時代の価値意識や思考様式,政治生活の単位に規定されて歴史性をもつからである。たとえば,ポリスを前提にして善や正義の普遍的原理を確立しようとしたギリシア政治哲学,キリスト教普遍世界を所与として宗教権力と世俗権力との関係を確定しようとした中世政治哲学,国民的形態をとった主権国家の構成原理を解明しようとした近代政治哲学は,政治哲学の歴史における主要な形態にほかならない。それに対して,現代は,政治批判の学としての政治哲学が強く要請されながら,しかもその終焉(しゆうえん)が公然と論じられる逆説のなかにある。国際的に連動する政治の現実が人類の存続や自由を脅かすほどの危機を深めるなかで,しかも人類は,歴史と科学との名による価値と知識との相対化に制約されて,みずからの尊厳にふさわしい政治哲学をもちえていないからである。その意味で,現代文明の危機の克服を政治哲学の復権に賭けるH.アレント,シュトラウスL.Strauss(《政治哲学とは何か》1968),フェーゲリンE.Voegelin(《秩序と歴史》1956-)らの試みは注目に値しよう。
→政治学
執筆者:加藤 節
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