ブートルー(読み)ぶーとるー(英語表記)Émile Boutroux

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ブートルー」の意味・わかりやすい解説

ブートルー
ぶーとるー
Émile Boutroux
(1845―1921)

フランスの哲学者。新唯心論立場から科学批判を行い、目的論的な考え方を自然科学の領域に導入し、自然法則偶然性を主張した。彼によれば、自然科学における機械論的な考え方は、宇宙論的宿命観にまで到達しているが、そのような自然の必然性は見かけ上のものにすぎず、因果連鎖かなたに偶然と創造的な自由がある。自然法則は無限の進化過程の一時的・偶然的なものであるにすぎず、人間の自由な創造的活動性(芸術道徳宗教など)こそが進化の最高の実践的目的である。哲学史家、教育家としても優れ、ベルクソンブランシュビック、アムランらの気鋭の哲学者たちを育てあげた。主著に『自然法則の偶然性』(1874)、『現代哲学における科学と宗教』(1908)などがある。

[足立和浩 2015年6月17日]

『エミィル・ブトルウ著、森有正訳『パスカル』(1942・創元社)』『野田又夫訳『自然法則の偶然性』(1945・創元社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「ブートルー」の意味・わかりやすい解説

ブートルー
Émile Boutroux
生没年:1845-1921

フランスの哲学者。エコール・ノルマル・シュペリウールで唯心論的実在論の主唱者ラシュリエに学び,またハイデルベルク大学ドイツ哲学を学んだのち,エコール・ノルマルやソルボンヌの教授を歴任した。彼は,科学の主張する自然の因果的必然性を超えて,質的観点から自然の運動のうちに目的を見るとともに,自然的存在から人間にいたる諸段階(現象の機械論的,物理化学的,生物学的,心理学的諸段階)に,漸増する偶然性(自由)と進歩を跡づけることで,唯心論的存在論の哲学を説いた。その哲学は,この時期のフランス哲学主流となり,ベルグソンやM.ブロンデルなど多くの弟子がそこに育つとともに,科学批判(科学哲学)の伝統をつくった。おもな著作に,《自然法則の偶然性》(1874),《科学における自然法則の観念と現代哲学》(1895),《現代哲学における科学と宗教》(1908)などがある。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ブートルー」の意味・わかりやすい解説

ブートルー
Boutroux, Étienne Émile Marie

[生]1845.7.28. パリ
[没]1921.11.22. パリ
科学批判に立脚したフランスの唯心論哲学者。エコール・ノルマル・シュペリュール (高等師範学校) で J.ラシュリエに学び,ハイデルベルクに留学。 1885~1907年パリ大学教授。 14年アカデミー・フランセーズ会員。門下から O.アムラン,H.ベルグソン,M.ブロンデル,L.ブランシュビックらが出た。主著『自然法則の偶然性』 De la contingence des lois de la nature (1874) ,『現代の科学と哲学における自然法則の観念』 De l'idée de la lois naturelle (95) ,『パスカル』 Pascal (1900) ,『現代哲学における科学と宗教』 Science et religion dans la philosophie contemporaine (08) 。

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