日本大百科全書(ニッポニカ) 「プレアニミズム」の意味・わかりやすい解説
プレアニミズム
ぷれあにみずむ
pre-animism
人物、事物、動植物、諸現象の作用や活動を、活力、威力、生命力、呪力(じゅりょく)、超自然力と感得する心意や態度を意味する。E・B・タイラーが唱えたアニミズムは、人物や事物その他に宿り、その宿り場を離脱できる霊魂や精霊の観念・信念を意味し、タイラーはこれを宗教の起源とみなした。これに対してプレアニミズムは、霊魂や精霊のような観念的な実態が認知される以前に、人間がある人物や事物・現象に情意的に反応し、「生きている=力」ととらえた段階があったとする。
プレアニミズム説を唱えたのは、タイラーの弟子R・R・マレットである。彼は、人類が霊魂・精霊観念をもちうるに至ったのは、人知が相当に発達したのちにおいてであると主張する。たとえば、南アフリカのコーサ人Xhosaは、暴風がおこると丘に登り、暴風に向かって進路を変えるよう呼びかけるが、これは暴風に霊魂を認めているのではなく、暴風そのものを生き物として反応しているのだと、マレットはいう。彼は自説を補強するために、メラネシアやポリネシアの先住民が抱いているマナmanaの観念を引用している。マナは超自然力・呪力であり、神や人間、自然現象に含まれており、物から物へと転移する。戦士が敵を倒せるのは、槍(やり)に強力なマナがあるからだとされる。アニミズムが事物や現象に内在する霊的存在を強調したのに対し、プレアニミズムは力・作用の面に注目したものといえる。プレアニミズムが宗教の原初形態であるとか本質を示すという考え方は、今日では否認されている。プレアニミズムはアニマティズム、マナイズム、ディナミスムともよばれる。
[佐々木宏幹]
『古野清人著『原始宗教の構造と機能』(1971・有隣堂)』▽『吉田禎吾著『宗教人類学』(1984・東京大学出版会)』