モスクワにある美術館。モスクワ大学付属の美術研究所を公共化しようとの同大学教授I.V.ツベターエフの提唱により,1898年定礎,1912年芸術博物館として開設。37年,モスクワ出身の文学者A.S.プーシキンの名を冠して現名に改称された。建物は,R.I.クラインの設計によるギリシア様式。開館当初は,古代ギリシア・ローマからルネサンスに至る彫刻(模作も含む)と古代エジプトの収集品を展示。十月革命後,他の美術館からの移管により版画部と西欧絵画部が設立された。さらに48年モスクワの国立西欧美術館から世界的に名高い旧個人コレクションが加わる。ファイユーム出土のエンカウスティク(蠟画),コプト織,バビロニア,アッシリア,ペルシアなどからの多種多様な作品を収蔵し,ビザンティン,イタリア,クレタのイコンも豊富である。13世紀から現代に至る西欧各派の絵画を有するが,とくにフランス印象派,後期印象派の優れた収蔵品が世界的に知られる。
執筆者:濱田 靖子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
モスクワにあり、サンクト・ペテルブルグのエルミタージュ美術館に次ぎ、ロシア第二の規模を誇る美術館。モスクワ大学学生の教材として収集された作品を展示する美術館として、1912年、同大学教授イワン・ツベターエフの提唱により開館。当時はモスクワ大学付属アレクサンドル3世美術館とよばれていたが、管轄が変わってのち、創立25周年とロシア近代文学の父プーシキンの没後100年を記念して、1937年現在の名称に改称された。当初はギリシア・ローマの彫刻、イタリアや北欧彫刻のコピー、エジプト美術を並べるくらいであったが、この内容を充実させる一方、革命後は私有財産の国有化に伴ってヨーロッパ美術の名作が集められ、絵画コレクションの充実が図られた。古代から現代に至る幅広い所蔵品のなかでも、フランス近代絵画のコレクションは世界的に名高い。また、ベルリン市内の美術館から疎開されて、1945年以来行方がわからなくなっていたシュリーマンによるトロイの発掘遺品、いわゆる「プリアモスの宝物」の所蔵が、93年、明らかにされた。
[湊 典子]
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