改訂新版 世界大百科事典 「ヘブライ人」の意味・わかりやすい解説
ヘブライ人 (ヘブライびと)
Hebrews
ギリシア語のヘブライオスhebraiosによる呼称で,旧約聖書ではイブリー`ibrî。前3千~前2千年紀の古代東方一帯の文書に,傭兵として現れたり,定住民を脅かしたりする遊牧的で不安定な社会層として,ハピルもしくはハビルhap/biru,`apiruなる名称が見いだされる。イブリーもフィリスティア人の傭兵,エジプトでの遊牧的下層民,債務奴隷身分に陥った下僕などとして言及されており,ハピル(ハビル)との言語学的対応は証明できないが,身分状況は対応する。イブリーを種族名とする見解も絶えないが,起源的にはパレスティナの貧窮した住民層を広く指していたとの想定が比較的妥当であろう。後代この語は《ヨナ書》におけるように,イスラエル人(びと)の意味で用いられるようになり(1:9),ユダヤ教時代にはユダヤ人の栄誉ある名称となり,彼らの古い言語をこの名で呼ぶようになった。新約聖書では,キリスト教に改宗したパレスティナのユダヤ人とのかかわりで用いられている。
執筆者:並木 浩一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報