日本大百科全書(ニッポニカ) 「ベルゲングリューン」の意味・わかりやすい解説
ベルゲングリューン
べるげんぐりゅーん
Werner Bergengruen
(1892―1964)
ドイツの小説家、詩人。バルト海沿岸のリガに医師(軍医として日露戦争に参加)の子として生まれる。リューベックのギムナジウム(シュトルムやトーマス・マンの母校)を経てドイツ各地の大学で学ぶうち第一次世界大戦が勃発(ぼっぱつ)し、ドイツ軍に志願する。戦後バルト防衛軍旗手(騎兵中尉)。1920年からベルリンで編集者をしながら詩や小説を書き、ロシア文学をドイツ語訳。1922年以降作家として自立、生涯に約200編の短編小説と、『アトゥムの法則』(1923)から『第三の花冠』(1962)に至る13の長編小説、数冊の詩集のほか、紀行、評伝、随想などを著し、各種の賞を受けた。1936年プロテスタントからカトリックに改宗、ミュンヘン近郊に転居。第二次世界大戦中空襲を受けチロールへ、戦後チューリヒへ移住、1958年バーデン・バーデンに定住、著作にいそしみつつ晩年を送った。
現世を支える大きな超自然の秩序を、不安の嵐(あらし)のさなかにも信頼し続ける彼は、ナチス政府の迫害を超えて長編小説『大暴君と審判』(1935)や『天上も地上も』(1940)を世に送り、舞台を過去に設定しつつ現実の限界状況の人間のもろさと救いを描いた。『最後の騎兵大尉』(1952)以降の晩年の長編三部作は、初期の短編を巧みに組み入れながら、自伝的要素の濃い理想の熟年像を提示する。
緻密(ちみつ)な構成、巧妙で高雅な話術、そして明るいユーモアで知られる『三羽の鷹(たか)』(1937)、『レーバルの死』(1939)、『スペインのバラ』(1941)などの短編群は、まさに彼の本領である。詩集に『ジェリコのバラ』(1936)、『怒りの日』(1945)などがある。
[船山幸哉]
『植田敏郎訳『ツィーゼルちゃん』(岩波少年文庫)』▽『大森五郎訳『E・T・A・ホフマン』(1970・朝日出版社)』▽『戸川敬一著『落穂集』(1970・春秋社)』