翻訳|pet
愛玩動物のことで,楽しみの対象として飼育される動物をいう。一般には容姿が美しくかわいらしいこと,鳴声がきれいなこと,性質が明るく陽気で行動に愛嬌(あいきよう)のあることなどがペットとしての条件にあげられる。そのため遺伝的に改良された品種(愛玩用家畜)も多数あるが,広義にはあらゆる動物が含まれる。イヌ,ネコ,カナリア,キンギョなどの哺乳類や鳥類,魚類は昔からペットとして飼いならされてきたが,最近ではヘビ,ワニ,カメなどの爬虫類やカエル,イモリなどの両生類も飼われるようになった。欧米ではこれらの愛玩動物を売買する店はペットショップと呼ばれ,各種動物をまとめて扱っているが,日本では小鳥屋,熱帯魚屋など別々の店で扱われる場合が多い。また昔はライオンやゾウなど大型動物を集めて楽しんだ王侯貴族もいたが,これもみずからの権勢を誇示する目的でペットとして飼育していたものと解釈される。このような猛獣をペットとして飼育する例は現在でもないわけではないが,近隣の住民への危険や飼育される動物の側の幸福の両面から考えて避けるべきであり,最近ではペット条例によってきびしく規制されている。日本では古くからヒバリやメジロなどの野鳥を籠に飼い,そのさえずりを楽しむ風習があったが,原則として野鳥の飼育も鳥獣保護法により許可を必要とする。野生鳥獣の減少しつつある今日,ペットはその目的で飼育,繁殖されている愛玩用動物に限るべきであろう。
愛玩用に育種された動物には,容姿を観賞するものと,鳴声を聞いて楽しむものと,競技をさせてその勝敗を楽しむものの三つがある。各種のテリア,スピッツ,プードル,チンなどの愛玩犬,ペルシア,シャムなどのネコは第1のグループであり,ニワトリにも尾長鶏,チャボ,各種バンタムなどの観賞用の品種が作られている。魚類ではキンギョ,コイでたくさんの品種が作出されているほか,エンゼルフィッシュ,グッピーなど数多くの観賞用熱帯魚が人工的に繁殖されている。第2のグループは家禽(かきん)が中心で,カナリアをはじめ,ニワトリにはトウテンコウ(東天紅),コエヨシ(声良),トウマル(唐丸)など一声で20秒もの時を告げる長鳴鶏が作出されている。江戸時代にはウズラの鳴声を楽しむ風習があった。ニワトリの声を楽しむのは日本ばかりではなく,東南アジアのバリ島ではアオエリヤケイとニワトリの一代雑種を籠に飼ってその声を楽しんでいるし,ドイツでもクリューエル種という長鳴鶏が作り出されている。第3の競技用の動物としては,走らせてスピードを競う競馬と競走犬があり,ウマではサラブレッド種,アラブ種,イヌではグレーハウンド種,ホイペット種が作出されている。軽駕(けいが)競走用のウマにはトロッター種がある。また動物どうしを闘わせて勝負を楽しむ競技に闘牛(日本),闘犬,闘鶏がある。日本の闘牛はウシどうしが力比べをする牛相撲ともいうべきもので,人間とウシが闘うスペインやメキシコの闘牛とは異なる。スペインでは闘牛用のリディア種という黒いウシを作っているが,これはたけだけしく人に反抗する性質へ向けて改良した唯一の家畜であろう。闘犬,闘鶏は先進国では動物愛護の見地から禁止している所が多いが,闘鶏は東南アジアで現在もひじょうに盛んである。日本鶏のシャモ(軍鶏),サツマドリ(薩摩鶏),カワチヤッコ(河内奴)などは闘鶏用の品種であった。
これらの愛玩用の家畜はその特性をさらにのばすための品種改良の努力が続けられている。遺伝的な血統を明確にするために登録事業が各品種ごとに行われるほか,飼育管理にも特殊な技術が適用される。例えば尾長鶏は止め箱という縦長の箱に飼い,最初に生えてきた尾羽を引き抜いて次の尾羽を育てる方法で10mを越える長い尾を作り出す。競馬,競走犬,闘鶏でも競技に対する調教訓練がたいせつである。家庭で飼育するペットについても,体型,姿勢を整えるための断尾,断耳などの手術や,毛を刈り整えるトリミングなどが実施される。また人間と共同生活するのであるから,食事や排便などのマナーは幼時にしっかりとしつけることも必要である。一方人間の側にも,一度ペットとして飼育し始めたからには,一生めんどうを見てやるだけの覚悟がなければ,ペットを飼うべきではない。
執筆者:正田 陽一
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