ペンとインキを用いた絵画の総称。西洋美術史上、ペンはもっとも重要な素描用具の一つである。原理的にはほとんどの素材がペンになりうるが、実際には弾力、耐久性、インキの保持力などの諸条件から、その材料はごく限られている。古代エジプト以来、アシがペンの主材料であったが、7世紀ごろ、より柔軟で耐磨性のある鳥の羽軸がこれにとってかわった。一方、早くから、耐久性に優れ、しかも使いよい金属ペンの考案が重ねられたが、18世紀後半に至るまで満足のゆくものは生まれなかった。
葦(あし)ペンは乾燥したアシの茎を斜めに切り落とし、先を割ったもので、線質は太くやや自在さに欠ける半面、力強さがある。とりわけゴッホはこのペンを好み、またレンブラントにもこれを用いた優れた素描がある。羽ペンは俗に鵞(が)ペンともいわれるように、ガチョウの羽軸が最良とされたが、ハクチョウやカラスもこれに次いで用いられた。これは羽軸の先を熱した砂にさして固め、これを斜めに削って先を割ったものである。ルネサンスから19世紀に至るまで、ほとんどの画家や彫刻家がこれを用いて素描している。
ペン画に用いられるインキには、墨、鉄没食子(もっしょくし)インキ、ビスタ・インキ、セピア・インキなどがある。古い素描の場合、墨以外はほとんど褐色を呈している。ビスタおよびセピア・インキはもともと褐色だが、鉄没食子インキは本来は青ないし黒系の色で、時間を経て変色あるいは退色した場合が多いので、それが画家の本来意図した色と考えるのは危険である。また、酸化鉄系インキの素描では、紙が酸化によって「焼け」て劣化していることが多い。19世紀に流行したセピア・インキは、烏賊(いか)墨を原料としたものだが、類似の発色効果のあるものを総称してセピアとよんだ。
[八重樫春樹]
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