ホウ素化学(読み)ほうそかがく(その他表記)boron chemistry

改訂新版 世界大百科事典 「ホウ素化学」の意味・わかりやすい解説

ホウ(硼)素化学 (ほうそかがく)
boron chemistry

ホウ素Bの化合物を取り扱う化学。ホウ素は周期表第ⅢB族の第1に位置する元素であるが,アルミニウム以下の他のⅢB族元素とはわずかな共通点があるだけで,むしろⅣB族のケイ素に似ている。ホウ素の原子価電子数は3((2s)2(2p)1)であるが,イオン化エネルギーが高くて陽イオンとはなりにくく,むしろ共有結合をつくりやすい。共有結合はsp2混成軌道によるもので,たとえばBF3,BCl3,BBr3などのように平面三角形の分子をつくりやすい。しかし,これらの分子でのBの原子価結合軌道は電子不飽和であるため,強いルイス酸であり,非共有電子対を有する,たとえばNH3のようなルイス塩基とは配位結合によって付加化合物をつくりやすい。ホウ素の化合物のうち最も重要なものは酸素との化合物である。ホウ酸B(OH3ホウ酸塩からハロゲン化ホウ素の加水分解によって得られ,

 B(OH)3+H2O─→B(OH)4⁻+H⁺  (pK=9.0) 

のようなきわめて弱い酸である。B(OH)3の構造は,Bを中心にした正三角形で,それが水素結合によってつながった無限層状構造となっている。ホウ酸塩はいくつかの鉱物として存在するが,それらの構造は平面三角形のBO3および四面体のBO4のつながった縮合酸である。ホウ酸を強熱するとB2O3が得られるが,ガラス状で金属酸化物をたやすく溶かしてホウ酸塩ガラスをつくる。

 ホウ素の最も特徴的な性質は,ホウ素原子で閉じた多面体や開いたバスケット形の配列をつくることであって,その基本骨格は単体ホウ素でみられる。ホウ素の結晶は,B12による三角二十面体がつながったものである。これはホウ化物にもみられるが,最も特異的なのは水素化物すなわちボラン類である。B12H122⁻は三角二十面体のB12にすべてHのついたかご形構造であり,それらのいくつかのBHがとれた構造もあるし,またBHの代りに等電子構造のCHの入ったBn-2C2Hnのようなカルボラン類もある。最も簡単なものはジボランB2H6(BH3は安定な状態では得られない)であるが,これらのうちにみられるB-H-Bのような結合は,三中心結合と呼ばれ,通常の結合と比べると結合数に対して電子が不足しているので電子不足化合物とも呼ばれる。ボラン類は燃焼に際して高エネルギーを発生するため,ロケット燃料として注目されたこともあって,研究が大いに発展した。ボランの誘導体一つのNaBH4は,きわめて取り扱いやすい還元剤として用いられる。NaB(C6H54は沈殿剤として用いられるが,ホウ酸エステルB(OR)3,BR(OH)2なども知られている。
ボラン
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ホウ素化学」の意味・わかりやすい解説

ホウ素化学
ホウそかがく
boron chemistry

水溶液系におけるホウ酸塩の相律的研究や,融解塩などにおけるケイ酸-ホウ酸塩の相律的研究を行う化学。 19世紀末から広く行われたが,ホウ素の水素化物,窒化物,イミドなどの本格的研究は 20世紀に入ってからで,これらはホウ素の化学的研究の主流をなした。 A.ストックらにより多くの水素化物が単離されたが,特にジボランは化学結合の本質に関する特例として,構造化学上の論議の的になった。 1930年頃からボラゾール,ボラザン,ボラゼン,ボラジンなどのホウ素-窒素化合物が発見されたが,本格的研究は第2次世界大戦後のことである。これらは重合触媒として重要であり,また水素化ホウ素はロケット燃料としての可能性を秘め,工業上重要な位置を占めている。水素化ホウ素のうちジボランは炭素-炭素二重結合を有する有機化合物の特殊な還元剤として利用される。

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