ポピュリズム(読み)ぽぴゅりずむ(その他表記)populism

翻訳|populism

デジタル大辞泉 「ポピュリズム」の意味・読み・例文・類語

ポピュリズム(populism)

(Populism)19世紀末に米国に起こった農民を中心とする社会改革運動。人民党を結成し、政治の民主化や景気対策を要求した。
一般に、労働者・貧農・都市中間層などの人民諸階級に対する所得再分配、政治的権利の拡大を唱える主義。
大衆に迎合しようとする態度。大衆迎合主義

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共同通信ニュース用語解説 「ポピュリズム」の解説

ポピュリズム

支配層のエリートを敵視し、民衆の意思を政治に直接反映させるよう求める草の根の改革運動。日本語では「大衆迎合主義」と訳されるが、もっと意味は広い。貧富の差が大きな国では「反格差」の左派ポピュリズムが、多様化の進んだ社会では移民排斥など右派ポピュリズムが多い。格差が大きく多様な米国では左右のポピュリズムが広がっている。

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精選版 日本国語大辞典 「ポピュリズム」の意味・読み・例文・類語

ポピュリズム

  1. 〘 名詞 〙
  2. [ 一 ] ( [英語] Populism ) 一九世紀末にアメリカ合衆国に起こった、農民を中心とした社会改革運動。第三の政党・人民党を結成し、政治の民主化や景気対策などを要求した。
  3. [ 二 ] ( [英語] populism )
    1. 一九三〇年代以降に中南米諸国の都市化を反映して発展した、労働者を支持基盤とする民族主義的な政治運動。アルゼンチンのペロン、ブラジルのバルガスなどが推進した政治をいう。ポプリスモ
    2. 俗に、大衆に迎合するような政治姿勢をいう。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ポピュリズム」の意味・わかりやすい解説

ポピュリズム
ぽぴゅりずむ
populism

1891年に結成されたアメリカ人民党、通称「ポピュリスト党」によって広まったことば。ラテン語で「人々」を意味する「ポプルス」を語源とする。20世紀になってからも、南米アルゼンチンのペロン体制、中国の毛沢東(もうたくとう)主義、アメリカのマッカーシズム、西欧諸国の極右政党など、多種多様な政治運動と現象がポピュリズムのうちに数えられてきた。

[吉田 徹 2018年7月20日]

ポピュリズムの特徴

日本では、「大衆迎合」「衆愚政治」「扇動政治」、最近では「反知性主義」などと同じ意味で使われることも多いが、アメリカでは一般的にポジティブな意味合いで用いられることが多い。その反対に、ファシズムを経験したヨーロッパ諸国や日本などではネガティブに用いられる。そのため、ポピュリズムということばは価値中立的に用いられることはなく、日欧では、非難されるべき対象や姿勢を名指しする場合に用いられるものであることに留意しなければならない。ポピュリストとされる政治家が自らを「ポピュリスト」と名のるわけではないため、ファシズムや保守主義などと区別して認識する必要が出てくる。

[吉田 徹 2018年7月20日]

ポピュリズムの共通項

古今のポピュリズムの事例に共通するものとして一般的に指摘されるのは、(1)政治・経済・文化エリートに対する異議申し立てであること、(2)主権者として代表されていない「人々」を顕揚すること、(3)カリスマ的な指導者が扇動することである。いずれの場合も、だれが「エリート」で、だれが「人々」に数えられるかは、その時代や国の文脈に応じて変化することが、ポピュリズム理解のむずかしさの一つになっている。政治エリートは、既成政党であったり議会であったりすることもあれば、官僚機構であることもあるし、経済エリートは財界や資本主義家である場合もある。文化エリートとしては、マス・メディアや知識人が論難されることが多い。また、エリートに無視されているとされる「人々」は、農民や労働者層であることもあれば、自営業者手工業者であることもある。

 ポピュリズムは非民主主義的で、ファシズムや独裁主義に近いとされることもあるが、実際にはイデオロギー的な体系をもっているわけではない。それが批判するのは、三権分立や官僚機構など、自由主義的原則に基づくエリート支配によって、人民の意思が歪曲(わいきょく)されている状況であることが多い。既存の利益団体職能団体に包摂されておらず、政治的に正当に代表されていないと感じている層(農民や単純労働者など)の不満を吸い上げ、既得権益層や過度に保護されているとされるエリートを非難して動員を図るものであり、ここから反エスタブリッシュメント、非主流派の政治と呼称されることもある。

[吉田 徹 2018年7月20日]

ポピュリズムの歴史

歴史的にみてポピュリズムには三つの波がある。最初の波は19世紀末のことであり、これはアメリカ人民党による政治運動に代表される。同党は不況にあえぐ南部・中西部の小作農と都市部の労働者層の支持を求め、鉄道・通信の国有化や企業の農地所有の制限、累進課税強化などの公約を掲げて、共和党と民主党という二大政党に挑戦した。しかし1896年の大統領選挙で民主党が同党の政策を取り込み、そのため支持基盤も広がらなかったことで急速に勢いを失っていった。その前の1860年代には、やはり農民の解放を目ざして、ロシア帝政を打倒するナロードニキ人民主義者)運動が起き、1881年には同運動の急進派によってアレクサンドル2世が暗殺される事件が起きている。

 これらのポピュリズムに共通しているのは、ともに国が農業経済から工業経済へと本格的に離陸する過程で起きていること、またアメリカの人民党の政策の一部はその後民主党に、ナロードニキはロシア革命を主導するボリシェビキに引き継がれることになり、ともに過渡的な政治運動に終わったことにある。

 ポピュリズムの第二の波は、第二次世界大戦後の高度成長の時代になってからである。先進国では、アメリカの共和党議員マッカーシーによる反共主義運動であるマッカーシズムが、1950年代のポピュリズムの代表例とされる。さらに当時の西ヨーロッパではイギリスの保守党議員パウエルEnoch Powell(1912―1998)がコモンウェルス(イギリス連邦)からの移民排斥を訴えたことや、フランスの自営業者プジャードPierre Poujade(1920―2003)が始めた反徴税運動であるプジャード運動などがポピュリズムの典型例とされた。これらは、戦後の高度発展期にあって、都市部に資本や人が集中するといった社会の構造的な変動に対する反動とされることもある。なお、マッカーシズムはその後大統領となるニクソンやレーガンに、パウエルは首相となるサッチャーに、プジャード運動は極右政治家ジャン・マリ・ルペンJean-Marie Le Pen(1928― )に影響を与えている。

 また、開発途上国においては、インドネシアのスハルト体制やチリのピノチェト政権、中国の毛沢東体制など、軍部の掌握を背景に、政治的自由よりも経済発展を優先する政治がポピュリズムとされた。

 以上のように、19世紀末と20世紀後半のポピュリズムも、いずれも産業構造が変動して既存の政治の利益媒介が揺らぎ、その後に別の形態を伴って展開していくことが確認できよう。

[吉田 徹 2018年7月20日]

21世紀のポピュリズム

その後第三の波として、ポピュリズムということばが広く用いられるようになるのは、21世紀に入ってからのことである。まず、2000年代には、イタリア首相のベルルスコーニやフランス大統領のサルコジなど、社会政策においてはきわめて保守的かつ権威主義的で、経済的には市場原理を重んじる政治家がポピュリストとされた。日本でも小泉純一郎がポピュリスト政治家とされたことは記憶に新しい。こうした政治家は、一様に古い政治を一掃すると主張して、新たな支持基盤を獲得するとともに、個人の自己決定権のようなリベラルな価値を批判する点でも共通していた。

 2010年代に入ってから目だつのは、従来は社会民主主義政党の金城湯池であった旧鉄鋼・炭鉱・重工業で栄えた地域で支持を集める、いわばポスト工業型のポピュリズムである。イギリス独立党(United Kingdom Independence Party:UKIP(ユーキップ))党首のファラージNigel Farage(1964― )やロンドン市長のボリス・ジョンソンBoris Johnson(1964― )などが主導したイギリスのEU離脱(ブレグジット)にかかわる国民投票で、大量に離脱に投票したのは、グローバル化の恩恵にあずかれなかった地域の人々であった。イングランド北東部は従来、労働党の強い地盤であった。また、トランプ大統領誕生とともに有名になった「ラスト・ベルト」も民主党の伝統的な支持基盤であったが、トランプ支持へと変転することになった。さらに2017年にフランスの大統領選の決選投票に進んだマリーヌ・ルペンが率いる国民戦線(FN)も、近年では社会党の地盤であった北東部で支持を伸ばしている。こうしたポスト工業型のポピュリズムは、製造業が衰退し、サービス産業が進展するなかで、移民の流入を含むグローバル化からの恩恵を感じられない旧中間層の不満に巣くっているといえる。

 なお、日本では石原慎太郎や橋下徹(はしもととおる)(1969― )、小池百合子(こいけゆりこ)(1952― )など、大都市の知事を務める改革志向の政治家がポピュリストとされることが多い。これは、二元代表制のもとで首長は住民から直接に選出されることによる。首長候補は地方議会や行政機構の既得権益を批判して、都市部の有権者の支持を集めることができるためである。

[吉田 徹 2018年7月20日]

民主主義とポピュリズム

このように、ポピュリズムはその時々の政治・経済・文化的エリートが進める政策や彼らが認める価値観に対して、反発を感じる社会階層が一定程度存在しており、その代弁者たるポピュリストが支持を集めることができたときに生起する。民主主義は、統治者(政治家)と被統治者(有権者)との同一性を原則としている。しかし、代表制民主主義においては、実際には両者の間につねに歪(ゆが)みが生ずる。この代表制の歪みを示す兆候としてポピュリズムをとらえることができる。いいかえれば、ポピュリズムによって民主主義が危機に陥るのではなく、民主主義が機能していないためにポピュリズムが生まれるといえる。

[吉田 徹 2018年7月20日]

『吉田徹著『ポピュリズムを考える』(2011・NHK出版)』『国末憲人著『ポピュリズム化する世界』(2016・プレジデント社)』『水島治郎著『ポピュリズムとは何か』(中公新書)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ポピュリズム」の意味・わかりやすい解説

ポピュリズム
populism

1892年に結党されたアメリカ合衆国の人民党,通称「ポピュリスト党」を通じて広まったことば。20世紀以降も,アルゼンチンのペロン体制,中国の毛沢東主義,アメリカのマッカーシズム,西ヨーロッパ諸国の極右政党など,多種多様な政治運動と現象がポピュリズムのうちに数えられてきた。アメリカではポジティブな意味合いに,ファシズムを経験したヨーロッパ諸国などではネガティブに用いられる。一般的には,(1) 政治・経済・文化エリートに対する異議申し立て,(2) 主権者として代表されていない「人々(people)」の掲揚,(3) カリスマ的な指導者による扇動,などを特徴にしている。ポピュリズムは非民主主義的で,ファシズムや独裁主義に近いとされることもあるが,イデオロギー的な体系をもっているわけではなく,三権分立や官僚機構など,自由主義的なエリート支配が人民の意思を歪曲していることを批判する。既存の利益団体や職能団体に包摂されておらず,政治的に正当に代表されていないと感じている層(農民や単純労働者など)の不満を吸い上げ,既得権益層や過度に保護されているとされるマイノリティを非難することで動員をはかることを特徴にしており,ここから反エスタブリッシュメント,非主流派の政治と呼称されることもある。

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知恵蔵 「ポピュリズム」の解説

ポピュリズム

政治に関して理性的に判断する知的な市民よりも、情緒や感情によって態度を決める大衆を重視し、その支持を求める手法あるいはそうした大衆の基盤に立つ運動をポピュリズムと呼ぶ。ポピュリズムは諸刃の剣である。庶民の素朴な常識によってエリートの腐敗や特権を是正するという方向に向かうとき、ポピュリズムは改革のエネルギーとなることもある。しかし、大衆の欲求不満や不安をあおってリーダーへの支持の源泉とするという手法が乱用されれば、民主政治は衆愚政治に堕し、庶民のエネルギーは自由の破壊、集団的熱狂に向かいうる。例えば、共産主義への恐怖を背景にした1950年代前半の米国におけるマッカーシズムなどがその代表例である。民主政治は常にポピュリズムに堕する危険性を持つ。そのような場合、問題を単純化し、思考や議論を回避することがどのような害悪をもたらすか、国民に語りかけ、考えさせるのがリーダーの役割である。

(山口二郎 北海道大学教授 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

世界大百科事典(旧版)内のポピュリズムの言及

【ポプリスモ】より

…英語ではポピュリズムPopulismという。大衆を支持基盤とした政治運動。…

※「ポピュリズム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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