オランダの軍医。1857年(安政4)11月、長崎奉行所(ぶぎょうしょ)西役所で始まった西洋医学伝習のオランダ人教師。この日本における最初の近代医学教育が、海軍伝習という海防力強化の一環として、幕府直参ならびに諸藩伝習生を対象に官費で行われたことが注目される。
ポンペは、1849年ユトレヒトの陸軍軍医学校を卒業、オランダ領東インドで軍隊勤務ののち、1857年9月陸軍外科二等軍医として長崎に到着、幕府の海軍伝習所閉鎖後も引き続き医学教育に従事した。1859年外国人による初めての人体解剖を行い、1861年(文久1)には長崎に日本最初の洋式病院である長崎養生所(120床)を建て、身分、貧富にかかわらず治療を行うとともに、伝習生の教育にあたった。この長崎医学伝習の日本側責任者は幕府奥医師の松本良順(まつもとりょうじゅん)で、伝習生のなかから佐藤尚中(さとうしょうちゅう)、関寛斎(せきかんさい)、岩佐純(いわさじゅん)(1836―1912)、池田謙斎(いけだけんさい)(1841―1918)、長与専斎(ながよせんさい)ら明治医学界の指導者たちが輩出した。ポンペは1862年長崎を去り、帰国したが、1867~1868年にライデンで『日本における五年間』を出版した。ブリュッセルで死去。
[神谷昭典 2018年8月21日]
(酒井シヅ)
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幕末に来日したオランダの海軍軍医。日本が系統的な西洋医学を導入するのに大きな役割を果たした。ベルギー生れ。ユトレヒト大学卒,海軍軍医となり,1857年幕府から招かれ第2次海軍伝習所医官として着任。在日5年間,幕府医官松本良順を中心に全国から集まった医学生を中心に,人体解剖・臨床医学講義を含む幅広い教育を行い,これらの多くは講義録として残されている。コレラ予防,性病予防,種痘にも従事。61年彼の要請で長崎養生所を建てたが,これは,日本における近代病院の最初であるとともに,長崎大学医学部の原点ともなっている。良順のほかに佐藤尚中,司馬凌海,入沢恭平,長与専斎,戸塚文海,岩佐純,佐々木東洋らが学び,日本における西洋医学・公衆衛生の実施・普及の原動力となった。62年に日本を去り,ハーグで開業し,赤十字委員となり,またペテルブルグの日本大使館に勤務した。この間,駐ロシア日本公使榎本武揚の顧問となったり,日本の赤十字加盟についての援助をなすなど,帰国後も日本に尽くすところ少なくなかった。著書に《日本滞在記》がある。
執筆者:長門谷 洋治
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… 幕府は西欧軍事技術とともに軍陣医学技術を導入させるべく,長崎に海軍伝習所とともに,医学の教養施設をつくった。医学については,オランダより招聘(しようへい)した軍医ポンペを師とし,日本側は,幕臣松本良順をはじめ各藩より選択されたものが学生となって,初めて西欧式の系統だった医学教育がおこなわれた。とくに臨床実習のために,小島という場所に西欧風の病院を建築しておこなうなど,本格的である。…
…当時の外科医としては青洲の門弟の本間棗軒(そうけん)や,順天堂をおこした佐藤泰然らが知られる。1853年(嘉永6)のペリーの黒船到来前後から幕府は西洋の軍事技術とともに西洋医学をも導入すべく努めるようになり,57年(安政4)にはオランダ海軍軍医のポンペを海軍伝習所医官として長崎に招いて西洋医学の講義を行わしめた。これは日本最初の公的な西洋医学教育であり,後日この教育を受けたもののなかから日本医学の指導者と目されるような人々が育った。…
…1861年(文久1)長崎に建てられた日本最初の近代的洋式病院(官立)で,近代医学教育の原点となった。蘭医ポンペの要請で小島郷佐古に同年7月1日に落成。病室8で各室15床からなり,ほかに隔離室と手術室4,料理室,浴室,運動室などをもつ木造2階建洋風建築であった。…
… 西欧式の病院は,16世紀キリスト教の伝道とともに西日本のいくつかの都市に設けられたが,教団本部からの医療伝道の禁止令によって廃された。したがって1861年(文久1)に江戸幕府が西洋医学伝習のため,オランダ人教師ポンペの建言によって長崎に設立した養生所(長崎養生所)が,日本における病院の始まりといえる。ただしポンペは,当時のオランダの教育病院のように,貧困階層の病人を収容して,教育に協力させることを考えたが,日本側は,西欧式の近代医療を受けられる施設であると理解して,上層階層のものが多く入院した。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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