改訂新版 世界大百科事典 「マニラアサ」の意味・わかりやすい解説
マニラアサ
Manila hemp
Musa textilis Née
アバカabacaとも呼ばれ,葉(葉鞘(ようしよう))から繊維を採るために栽培されるバショウ科の多年草。原産地はフィリピンとされ,東南アジア熱帯で栽培される。草姿はバナナに酷似して,高さ約4mの葉鞘が巻き重なって茎状の偽茎を形成し,これが群がって株をつくる。葉身は狭長卵形で,長さ3.5m,幅50cmになる。果実はバナナに似て小型で,種子を有するが,増殖は主として吸芽(株から出た子苗)による。葉鞘から,強靱で弾力のある硬質繊維を採り,ロープや敷物などに利用する。耐水性があり,比重が小さいため,船舶用のロープに多く利用された。
執筆者:星川 清親
フィリピンのマニラ麻栽培
第2次大戦前,とくに1910年代,20年代にフィリピン最大の輸出商品であったマニラ麻も,最近では10大輸出商品の最下位を占めるにすぎず,年輸出額も2000万ドル程度(1982)である。生産低下の主たる理由は,病害のほか,戦後の人造繊維の開発によって工業製品に代替されるに至ったからである。マニラ麻収穫面積は37年に50万haで,生産量も20万tに達したが,72年にはそれぞれ14.5万ha,11万tの最低水準に落ちた。当時,〈死滅しつつある産業〉とまでいわれたが,70年代の石油危機を契機とする人造繊維の生産費上昇によりしだいにマニラ麻への需要が回復し,81年には23万ha,13万tにまで増大した。しかし,マニラ麻を主要所得源とする農家数は1971年に1万2500戸程度にすぎず,栽培農家のほとんどは5ha以下の小生産者で,大農園はきわめて少ない。そのため経営合理化の余地は限られている。
フィリピンにおけるマニラ麻の主産地はルソン島南東部のアルバイ州,南・北カマリネス州,ソルソゴン州を含むビコル地方,レイテ島およびミンダナオ島のダバオ州である。マニラ麻には一定した収穫期がないため,年間均等化した降雨量があり,台風の経路からも外れているダバオ州が適地である。第2次大戦前,ダバオは日本人の一大移民による農業植民地として有名であった。1934年に日本人移民数は1万5000人に達し,その農場面積は約3万8700ha,ダバオで産出されるマニラ麻の8割を日本人が生産した。400haをこえる日本人大農園は25に達したとされ,古川拓殖や太田興業会社の名が知られている。しかし,これら日本人農園は戦後すべて現地国側に接収・返還され,小生産者に分割された。その一部が最近バナナ栽培地に転換されている。マニラ麻は船舶用その他ロープの原料,漁網などにおもに用いられるが,最近では製紙原料として注目され,製紙会社の需要が増えつつある。
執筆者:滝川 勉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報