日本大百科全書(ニッポニカ) 「バショウ」の意味・わかりやすい解説
バショウ
ばしょう / 芭蕉
[学] Musa basjoo Sieb. et Zucc.
バショウ科(APG分類:バショウ科)の半耐寒性多年草。中国原産。社寺、庭園などに観賞用として植えられている。地下に大きな塊茎をもち、そこから葉鞘(ようしょう)が密に重なった偽茎を、高さ2~5メートルに直立し、その先に大形の葉を展開する。葉は長楕円(ちょうだえん)形、長さ2メートル、幅50センチメートル、鮮緑色で、葉身と直角の平行脈をもち、裂けやすく、強風に耐える。夏季、偽茎の中心から湾曲した太い花茎を出し、各節に大形の包葉がつき、各包葉の内側に十数個の花が二列に並んで開く。花序の先に雄花、基部に雌花があり、花弁は黄色で結実しにくい。日当りのよい高温多湿の所でよく育つ。腐植分の多い肥沃(ひよく)な粘質土で植え、年に2~3回、油かすに2~3割の骨粉を混ぜた肥料を、一~二つかみ、根元に散布する。関東地方以西の暖地では戸外で越冬する。
[植村猶行 2019年6月18日]
文化史
バショウは平安時代初期に知られ、『倭名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』(931~938ころ)に、和名発勢乎波(はせをは)と出る。『古今和歌集』(905ころ)紀乳母(きのめのと)の歌「いささめに時まつまにぞ日は経(へ)ぬる心ばせをば人に見えつつ」は、ささ(笹)、まつ(松)、日は(枇杷(びわ))、ばせをば(芭蕉葉)を詠み込んだとされる。俳人松尾芭蕉はバショウを愛し、1692年(元禄5)芭蕉庵(あん)を新築し、「芭蕉を移詞(うつすことば)」を表した。奥州への旅立ちの際は庵のバショウが気がかりであったとみえ、その中に「……みちのくの行脚(あんぎゃ)おもひ立(たち)て……あたりちかき人々に霜の覆(おほ)ひ、風のかこひなど、かへすかへす頼置(たのみお)きて……」と書いている。またバショウに関して、「ばせを植(うゑ)てまづにくむ荻(をぎ)の二葉哉(ふたばかな)」の句もつくっている。室町時代の謡曲『芭蕉』は、バショウが老女に化け、僧と無常感について問答する。バショウがはかないとの見方は、中国戦国時代の『列子』の周穆王篇(しゅうぼくおうへん)に出る「蕉鹿(しょうろく)の夢」の影響が深い。それは、木こりが鹿(しか)を狩り、大喜びし、バショウの葉で隠したが、その場所を忘れてしまい、人生の得失は夢のごとくはかないと悟る訓話である。『仙伝抄』(1536)は、バショウを平生はいけるが、祝言に忌む花の一つにあげた。バショウの名は漢名の芭蕉からといわれるが、インドのマラヤラン地方のバシャvasha、スマトラのメンタワイ島のバジョーbajoなど南方系のことばが語源とする見方もある。
リュウキュウバショウ(イトバショウ)から織る芭蕉布(ふ)は沖縄の特産で、すでに14世紀、明(みん)に献上されている。
[湯浅浩史 2019年6月18日]