改訂新版 世界大百科事典 「マリク」の意味・わかりやすい解説
マリク
malik[アラビア]
〈支配者〉〈王〉を意味する語。コーランでは神あるいは異民族の王の呼称として用いられ,カリフも自らマリクを称することはなかった。しかしアッバース朝以後のウラマーによれば,ウマイヤ朝時代からのカリフは,たとい称号はカリフであっても,その実態は世俗的な君主(マリク)にすぎず,わずかにアッバース朝時代の何人かのカリフがイマームに必要とされる水準に達したとされた。現実には,10世紀以降サーマーン朝やブワイフ朝の君主はアッバース朝カリフの宗主権を認めて,自らはペルシア語のシャーと同じ意味でマリクを称した。トルコ系のザンギー朝やアルトゥク朝の君主もマリクの称号をよく用いたが,アイユーブ朝やマムルーク朝では〈勝利の王al-malik al-nāṣir〉のように,スルタンに対する形容名辞としての用法が一般化した。近代以降は,エジプトやイラクやヒジャーズなど独立国家の君主の称号として使用された。
執筆者:佐藤 次高
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報