マロリー‐ワイス症候群
まろりーわいすしょうこうぐん
Mallory-Weiss syndrome
嘔吐(おうと)を繰り返す結果、食道と胃の接合部付近の粘膜に裂傷が生じて出血を起こす病態。アルコールの大量摂取が原因となることが多く、アメリカの病理学者マロリーGeorge Kenneth Mallory(1900―1986)と医師ワイスSoma Weiss(1898―1942)が、死亡したアルコール依存症患者の解剖結果をもとに1929年に初めて報告した。腹腔(ふくくう)内圧の急激な上昇により食道に圧がかかることが原因となる。乗り物酔いや食中毒、妊娠悪阻(おそ)(つわり)などによって嘔吐が誘発される場合や、激しい咳(せき)やくしゃみ、排便なども腹腔内圧の上昇をきたすため病因となりうる。食道と胃の接合部付近の噴門部を縦走する粘膜裂傷からの出血を認めることが多い。新鮮血の混じる吐血がほとんどであるが、まれに下血することもある。出血は少量であることが多いが、大量出血するとショック状態に陥る。マロリー‐ワイス症候群は、消化管出血全体のおよそ10%前後を占め、40~50歳の男性に多い。食道にかかる圧が元に戻れば自然に止血することが多く、一般的に予後は良好である。出血が持続する場合には、止血クリップや焼灼(しょうしゃく)術など内視鏡的止血術が有効である。
[編集部]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
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「マロリー‐ワイス症候群」の意味・わかりやすい解説
マロリー=ワイス症候群 (マロリーワイスしょうこうぐん)
Mallory-Weiss syndrome
激しい嘔吐などにより腹腔内圧が急激に上昇したために,食道胃接合部付近(主として胃側)に裂創が生じ,吐血を起こす疾患をいう。1929年アメリカの病理学者マロリーG.K.Malloryと内科医ワイスS.Weissが,飲酒後嘔吐を繰り返したのちに大量の吐血をして死亡した患者4人の病理解剖によって,初めて病態を明らかにした。発症の誘因は飲酒による反復性の嘔吐が最も多いが,食中毒,車酔いなど他の原因による激しい嘔吐でも起こる。また嘔吐でなくても激しい咳やくしゃみで起こることもある。かつては出血源不明のまま手術されたり死亡したりしたが,内視鏡検査とくに出血後早期(24~48時間以内)に行う緊急内視鏡検査により容易に診断されるようになった(X線検査による診断は困難である)。たいていは安静および輸血・輸液・止血剤投与などの内科的治療によって治癒する。出血が持続して大量の輸血によっても全身状態が改善しない場合は手術が行われる。
執筆者:谷 礼夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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「マロリー‐ワイス症候群」の解説
まろりーわいすしょうこうぐん【マロリー・ワイス症候群 Mallory-Weiss Syndrome】
[どんな病気か]
食道内や胃内の圧が上昇し、食道の粘膜(ねんまく)が裂けて出血をきたす病気です。
裂けるのは粘膜だけで、特発性食道破裂(とくはつせいしょくどうはれつ)(「特発性食道破裂(ブールハーフェ症候群)」)のように、内容物が胸腔(きょうくう)や腹腔(ふくくう)にもれ出ることはありませんが、大量の吐血(とけつ)や下血(げけつ)がおこり、出血性ショックにおちいって生命が危険になることがあります。
飲酒、暴飲暴食などの後の嘔吐(おうと)の際におこることが多いものです。
[治療]
食道の内視鏡検査で診断しますが、その場で内視鏡を介して止血剤を塗布したり、電気で傷口をふさいだり(電気凝固)、止血クリップをかけたりします。
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世界大百科事典(旧版)内のマロリー‐ワイス症候群の言及
【傷】より
…肛門にみられる裂肛は硬くて大きい便が排出されるときに,肛門の過度の伸展により生じた裂創である。吐血,下血を主訴とするマロリー=ワイス症候群Mallory‐Weiss syndromeは,頻回の嘔吐を繰り返すことによる胃内圧亢進のために食道下端部から胃の噴門部の粘膜に生じた裂創である。
[咬傷bite wound]
人または動物の歯でかまれてできた創傷。…
【消化管出血】より
…しかし,胃癌での出血は,慢性持続性出血の型をとるものが多いため,下血の形をとることが多い。また,飲酒後嘔吐した際に食道胃接合部近傍粘膜に裂傷を生じ出血する[マロリー=ワイス症候群]も大量出血を起こす。そのほか,遺伝性出血性末梢血管拡張症では,家族内に吐血が頻発することから診断される。…
※「マロリー‐ワイス症候群」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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