妊娠早期にみられる嘔吐を中心とする症状をいい,妊娠嘔吐ともいう。食欲不振,嗜好の変化,胸焼けに続いて吐き気(悪心)が起こり,嘔吐するようになる。吐き気,嘔吐は早朝空腹時に起こることが多く,英語ではmorning sicknessともいい,二日酔いに似る。食欲不振,吐き気などは心因性のものが多く,嗜好物の変化を伴い,好物の摂取によって吐き気がおさまることもある。また嘔吐後には気分がさっぱりして食欲がでることもある。つわりは妊娠第2月ころからあらわれ,1~2ヵ月間持続して妊娠第4月ころには軽快ないし消失するが,ときには妊娠末期まで続くこともある。妊娠の過半数ないし80%にもみられ,経産婦より初産婦に多い傾向があり,神経質な婦人に多い。つわりの原因としては,心因,ホルモンの作用,物質代謝の変調,自律神経失調などがあげられるが,いまだ不明である。つわりは生理的なもので,特別の治療を必要としない。ときには実家への帰宅,転地などの気分転換が好影響を及ぼす。また胃腸薬,少量の鎮吐薬,神経安定剤を用いることもある。しかしサリドマイドの例にもあるように,妊娠第5~9週の器官形成期は奇形を起こしやすい臨界期であるので,薬剤の摂取には慎重を要する。薬剤には多少の副作用があると考えるべきで,本来の疾病の影響,薬剤の効果とのバランスの上にたって決定すべきであろう。
妊娠悪阻は,つわりが悪化し,栄養障害などの全身的障害を起こすに至ったものをいう。妊娠悪阻の頻度は0.3%であり,つわりと同じく妊娠第2,3月ころに多い。成因は不明であるが,子宮の増大による自律神経障害,ホルモンの変動説などがある。肝臓および自律神経機能障害,代謝異常,体液バランスまたはホルモンの失調,栄養障害がみられる。妊娠悪阻は妊娠中毒症の早期症状とされていたが,現在では妊娠中毒症は妊娠後期にのみ発現するものと考えられ,妊娠悪阻は妊娠中毒症からははずされるに至った。症状により3期に分けられる。妊娠悪阻の第1期は嘔吐を主徴として,食物がとれなくなり,脱水,飢餓などの全身症状を起こす。第2期は,これに中毒症状を合併したもので,体重減少,皮膚乾燥,口臭,黄疸,脈拍細小頻数,血中残余窒素の増加などが起こる。第3期になると脳・神経症状を起こし,頭痛,めまい,不眠,視・聴覚障害を訴え,嗜眠,昏睡に陥り,ときには死に至ることもある。しかし最近の悪阻は第3期になるものはほとんどない。
治療法としては,安静,精神療法,絶食,輸液,電解質調節,クロールプロマジン,トランキライザーなどの鎮静剤などが用いられる。絶食は有効で,その後に補液,栄養補給が行われる。各種の治療によっても症状が好転しない場合には,人工妊娠中絶もやむをえない。
→妊娠中毒
執筆者:鈴村 正勝
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
妊娠が原因となって妊娠初期に発症する消化器系の症状を中心とした症候群を一般に「つわり」とよんでいる。すなわち、予定月経の発来がみられずに7~14日過ぎた妊娠五週ころから、食欲不振、気分や嗜好(しこう)の変化、唾液(だえき)分泌の亢進(こうしん)、夜間など空腹時の悪心(おしん)や嘔吐(おうと)などがみられるものをいい、全妊婦の60~80%に発症するといわれる。発症の機序は不明であるが、妊娠時の内分泌環境、とくに妊娠初期に大量に分泌される絨毛(じゅうもう)性ゴナドトロピンをはじめ、妊娠に伴う情動障害や不安などの心理的因子などが要因として考えられている。
つわりの症状には、前述のほかに、胸やけ、心悸(しんき)亢進、不眠などもあり、通常では気にもならないにおいに極度の嫌悪を感ずるなど、嗅覚(きゅうかく)をはじめ、聴覚、味覚、視覚などの感受性亢進もみられる。普通は妊娠14~16週ころまで続いて軽快するが、妊娠期間中続くこともある。
一般に、つわりの重くなったものを妊娠悪阻(おそ)とよんでいるが、つわりと妊娠悪阻との間に明確な一線が画されているわけではない。通常、妊娠4か月以上になっても症状が軽快せず、しだいに強くなって衰弱などの全身症状が顕著となり、ついには生命に危険を及ぼすような場合を妊娠悪阻といい、妊娠中毒症の一つとして早期妊娠中毒症とよばれたこともある。
つわりに対しては、妊娠による症状であることをよく理解したうえで、食事は1日3回にこだわらず、消化のよい栄養に富んだものを少量ずつ数回に分けてとるほか、肉体的、精神的安静を心がけ、排便や排尿を調整する。また、一般にこの時期の妊婦は神経質になり、感情も不安定になりがちであるから、環境を調節するとともに、気持ちをゆったりと保つように努力するほか、神経的な作用も大きいので、病人のように思い込んだり、つわりを意識しすぎないほうがよい。なお、妊娠悪阻の場合は医師に相談して適切な処置をとるが、重症例では入院治療が必要となる。
[新井正夫]
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出典 母子衛生研究会「赤ちゃん&子育てインフォ」指導/妊娠編:中林正雄(母子愛育会総合母子保健センター所長)、子育て編:渡辺博(帝京大学医学部附属溝口病院小児科科長)妊娠・子育て用語辞典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…40歳以下の妊婦で最大血圧140mmHg,最小血圧90mmHg以上の場合は妊娠中毒症などが考えられ,医師の診察が必要となる。(c)消化器の変化 妊娠第6週ころから妊娠嘔吐いわゆる〈つわり〉がみられる。つわりは一般に約1ヵ月半続き,第3~4ヵ月ころに消失するが,約60%の妊婦にみられる。…
※「つわり」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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