翻訳|mink
哺乳(ほにゅう)綱食肉目イタチ科の動物のうち、東ヨーロッパからシベリア西部にいるヨーロッパミンクMustela lutreolaと、カナダ、アメリカ合衆国にいるアメリカミンクM. visonの2種をさす。ヨーロッパミンクは西ヨーロッパにも、アメリカミンクはアイスランド、ヨーロッパ各地、シベリアにも移入され、日本でも北海道で飼育中に逃走したアメリカミンクが野生化している。両種とも体長35~40センチメートル、尾長17~20センチメートル、イタチより大きく、テンよりやや小さい。雌はやや小形。野生種は黒褐色ないし褐色で、ヨーロッパミンクは唇の周囲が白い。川岸や湖沼の岸の草地にすみ、後足の指の間には水かき膜があって泳ぎが巧みである。木の根や岩の陰を休み場としているが、アシの茂みに巣をつくることもある。昼行性とされるが、夕方や夜にも活発に行動し、ネズミ、ウサギ、カエル、魚などを食べる。植物性のものはほとんどとらない。養魚場を襲うこともある。交尾は2~3月、妊娠期間は40~48日で、70日にもなることもある。1産2~6子、まれに10子を産む。子は5週間で独立する。飼育下での寿命は10年。
[朝日 稔]
ミンクの毛皮は最高級とされ、古代から捕獲が続けられた。そのためヨーロッパミンクは東ヨーロッパを除いてほとんど姿を消し、アメリカミンクも減少した。カナダにはアメリカミンクの約2倍の大きさのウミミンクM. macrodonという種類もいたが1860~1870年に絶滅した。現在でもカナダや合衆国北部で年間10万頭程度の野生ミンクが捕獲されているが、市場に出ている大部分は養殖ミンク(ランチミンク)である。アメリカミンクの人工飼育は1866年にアメリカで開始されたが、商業ベースにのるようになったのは20世紀初めである。現在では合衆国北部、カナダ、ヨーロッパ各地、日本へも広がり、年間3000万頭以上、世界の毛皮市場の取引の70%を占める産業となっている。日本では北海道を中心に20万頭ほど飼育されている。養殖ミンクは野生型の黒褐色のほか、種々の毛色の品種が遺伝的に固定されており、パステル、サファイア、ダーク、プラチナ、ガンメタル、パール、白、ウインターブルー、ペール、ラベンダー、バイオレットなど数十種になる。価格は流行に左右されるが、最高級品は1枚125ドル以上になる。加工品としてはコート、ストール、襟などであるが、コートやストールは同じ品種の同じ部位を切り出し、数ミリ幅に切れ目を入れて拡大、整形(レットアウト加工)した短冊形の単位をはぎ合わせて縫製するので、きわめて高価なものとなる。飼育は、1~2平方メートルの広さの巣箱付きのケージに1頭ずつ入れる。飼料は、以前は魚やニワトリのあら、すじ肉などを利用していたが、最近は魚肉を主原料とした配合飼料が用いられている。と畜は12月から翌年1月にかけて、冬毛の美しい時期に行う。ヨーロッパでも北海道でも、この養殖ミンクが逃走、野生化しており、在来他種より大形のために、分布の拡大によって他種を圧迫することが心配されている。
[朝日 稔]
食肉目イタチ科の哺乳類。上質の毛皮をもつイタチに似た小獣。イタチよりも体が太く,四肢が短い。毛は柔らかく,色はふつう光沢のある茶色から暗褐色。のどからあごにかけて白斑がある。フィンランド,ロシア,ポーランド,フランスなどにすむヨーロッパミンクMustela lutreola(体長28~43cm,尾長12~19cm,体重740gくらいまで)と,北アメリカにすむアメリカミンクM.vison(体長33~43cm,尾長16~23cm,体重680~2310g)の2種がある。両種は若干の大きさの違いを除いてよく似ているが,のどからあごにかけての白斑がヨーロッパミンクでは上あごまでひろがるのが特徴。
夜行性とされるが,色を区別できる目をもつことから,昼間も活動するものと思われる。飼育下では夜間よりも昼間よく動く。両種ともに川,湖,沼などの水辺近くの草の茂みを好みのすみ場所とし,水場から100m以上離れることは少ない。泳ぎと潜水がうまく,しばしば水に入って,水中で魚,カニ,カエルなどの獲物を追う。獲物はほかに昆虫,ネズミなどの小動物で,植物質はほとんど食べない。巣は,岸に自分で穴を掘るか,ミズハタネズミやマスクラットなどの巣穴を利用する。樹洞や岩の隙間などの自然の空所を巣とすることもある。交尾期は2~4月,出産は4~5月に行われる。妊娠期間は39~78日と幅があるが,これは子宮への胚の着床が遅れることがあるためである。1産2~10子。寿命は7~10年。
毛皮を取るための養殖は,古く1866年にアメリカで成功したといわれるが,本格的に行われるようになったのは年間産額30万枚を超えた1930年代以降で,とくに50年代に入ってから養殖業は急速に成長し,70年には世界の年間産額が2500万枚になった。純白から漆黒にいたるあらゆる毛色の系統が作出され,アメリカ,カナダ,北欧,ロシアなどがおもな生産国になっている。日本では1955年ころよりおもに北海道で養殖が行われ,北海道では逃亡したものが野生化している。
→毛皮
執筆者:今泉 吉晴
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…代表的な毛皮を以下にあげる(アーミンとシー・オッターは現在ではほとんど見られないが,かつては広く知られていた)。ミンクminkミンクの毛皮。野生種の毛色は褐色で,生息地によって色調が異なるが,背筋に濃い線が入り,長くてつやのある上毛が,絹のように柔らかな下毛を覆っている。…
… 偶然に帰化したものとしては,飼育していたものが逃げ出して定着したものに,1918年ころから食用に北アメリカから移入し,各地で養殖していたが,その一部が逃げ出して各地に野生化したウシガエル,そのウシガエルの餌として30年ころ神奈川に移入して養殖していたところ,大雨による出水で逃げ出して,付近の水田などに野生化し,しだいに各地に分布を広げたといわれる北アメリカ産のアメリカザリガニ,35年ころ食用に台湾から移入したものが,小笠原,奄美,沖縄などに野生化した,アフリカ原産のアフリカマイマイなどがある。また,愛玩用に飼育していたものが逃げ出して帰化したものに,北海道,岐阜の金華山などに野生化した韓国産のチョウセンシマリス,東京付近などに野生化したセキセイインコその他多数の飼鳥,動物園で飼育していたものが逃げ出して野生化したものに,伊豆大島,鎌倉などにすみついた台湾原産のタイワンリス,毛皮獣では第2次大戦中南アメリカから輸入し,各地で盛んに養殖していたが,その一部が逃げ出し,岡山その他に野生化したヌートリア,同じころ養殖されていたと思われ,東京の江戸川付近に定着している北アメリカ産のマスクラット,戦後毛皮獣として輸入され,養殖されていたものが逃げ出し,北海道で野生化した北アメリカ産のミンクなどがある。さらに,輸入した植物などに付着して偶然に入って来たと思われるものに,明治末に観賞用植物についてオーストラリアから入ってきたイセリアカイガラムシ,第2次大戦中に日本に入った北アメリカ原産のアメリカシロヒトリ,同じころ中国から入ったアオマツムシなどがある。…
…毛皮用に供される動物は100種以上にのぼるが,動物の希少価値,毛皮製品の使用性に応じて,その経済的価値には大きな差異を生ずる。高級毛皮としては,ミンク,キツネ,テン,チンチラ,カラクールなどがある。ミンク,キツネなどが飼養され,またメンヨウ,ヤギ,ウサギなどの家畜が多く利用されている。…
※「ミンク」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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