改訂新版 世界大百科事典 「ムジナ」の意味・わかりやすい解説
ムジナ (狢/貉)
イヌ科のタヌキあるいはイタチ科のアナグマの異名。渡瀬庄三郎によれば,東京以西では動物学上のタヌキを正しく〈タヌキ〉と呼ぶが,これは比較的新しいことばであり,古くはタヌキを指してムジあるいはムジナと呼び,アナグマをマミあるいはササグマと呼んだという。しかし,これは必ずしも確かではなく,タヌキとアナグマの双方をムジナと呼ぶ地方もある。
執筆者:今泉 忠明
民俗
ムジナはタヌキと同じく人間を化かす,また大入道その他の怪物の姿で人をおどすともいう。昔話に,木挽(こびき)が小屋にいると女がとめてくれとやってきたが,いろりに足を出してあたるのを見ると,ぬかるみを歩いてきたはずなのに真っ白い足袋に汚れが見えないのでなべの湯をかけると死んでムジナになったなどというのがある。佐渡ではトンチボウと呼んで山の神の姿のようにも考え,またこれにまつわる伝承が残っていた。また,長野県北境の山中ではバンブクといって腹に毛のないものが化けるなどともいっていた。福井県坂井市,あわら市の一部では正月15日に青年がムジナガリという行事を行ったというが,関西各地のキツネ狩りに類したものらしく,これもこの動物を一種の霊獣とみたためらしい。
→アナグマ →タヌキ
執筆者:千葉 徳爾
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報