西太平洋,ミクロネシア連邦のカロリン諸島西部にある島。北緯9°30′,東経138°10′に位置し,環太平洋造山帯上にある陸島で,大小四つの島で構成される。陸地総面積101km2,人口1万1241(2004)。第2次世界大戦までは日本の委任統治領で,1947年以来アメリカを施政国とする国連信託統治領であった。82年にトラック,ポナペ,コシャエ地区とともにミクロネシア連邦としてアメリカとの間で自由連合協定に調印した。島民の言語であるヤップ語はアウストロネシア語族に属するが,中核ミクロネシア語とは系統上一線を画し,正確な言語系統上の位置づけは不明である。ヤップ島では比較的伝統的生活が営まれており,伝統的島民の生計は女性の耕作によるタロイモ,ヤムイモなどのいも類と,男性による漁労に依存している。とりわけ水田で栽培されるタロイモ(キリストペルマ種)が重要な作物で,焼畑で栽培されるヤムイモは二次的な作物である。
ヤップ社会の基本的な生活単位は狭い範囲の父系的拡大家族で,それは特定の屋敷と結びついている。他方,周辺のカロリン諸島の島民と同様に,母系氏族にも各人は所属しているが,結婚後は女は夫方に居住するので,母系氏族の成員は各村に分散して特定の集団を形成せず,二重単系制社会である。前述した屋敷は基本的政治単位でもあって,この屋敷に位階,職能,特権が付属している。ヤップ社会の体系を貫いているのは土地であって,土地に力がある。個人はある特定の屋敷地を相続することを通じて,その土地に付与されている位階,職能,特権を継承する。島の政治体系を支配しているのは身分的階層秩序で,島は100余りの村落に分割されていて,村そのものに階級があり,上層階級(ピルン)の村と下層階級(ミリンガイ)の村に二分される。北部のカギール地区の村は,宗教的権威を背景に,北東方の離島ウリシー環礁を経て,トラック諸島北部のナモヌイト環礁に至る広大な海域における貢納・交易網を支配した。なお,島では親族,村落間の儀礼的交換において,石貨と貝貨(ばいか)が大きな役割を果たしている。
執筆者:牛島 巌
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
太平洋北西部、カロリン諸島の西部にある島。詳しくいえば、ルムング、マップ、ガギル・トミル、ルール(これをヤップ島という)の四つの島が一島のように密接しているのでヤップ諸島ということもある。合計面積101平方キロメートル、人口1万5600(2001推計)。最高峰はタビウォルTabiwol山(178メートル)。日本委任統治時代(1919~45)のヤップ支庁所在地。ミクロネシア連邦(1979自治政府発足)のヤップ地区行政機関がコロニアColoniaにある。石貨とグラス(草)・スカートの島として知られ、石の舗装路や石の舞台など古代遺跡に富む。
[大島襄二]
島民の言語であるヤップ語はオーストロネシア語族の一員であるが、中核ミクロネシア語とは系統上一線を画し、正確な系統上の位置づけは不明である。伝統的島民の生計は女性の耕作によるタロイモ、ヤムイモと男性による漁労に依存している。カロリン諸島の母系制社会の領域にあるが、ヤップの基本的生活単位は狭い範囲の父系的拡大家族で、それは特定の屋敷と結合している。他方、母系氏族は、夫方居住婚であるのでその成員は各村に分散している。ヤップの政治・社会体系を支配しているのは身分的階層秩序で、ヤップ島は百数余の村落に分割されていて、村そのものに階級があり、上層階級(ピルン)の村と下層階級(ミリンガイ)の村に二分される。
北部のカギール地区の村は、宗教的権威を背景に、東方離島のウルシー環礁を経て、チューク諸島(トラック諸島)近くのノモヌウィト環礁に至る広大な海域における貢納・交易網を支配した。この島では儀礼的に貴重品を交換することを通じて、社会関係が維持されている。このような儀礼的貴重品である石貨と貝貨は、現在も人々の間で生き生きと交換されている。
[牛島 巖]
『牛島巖著『ヤップ島の社会と交換』(1987・弘文堂)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…低身長,やせ形,褐色の皮膚,薄い唇,黒髪,直毛などの身体的特徴から,人種上,モンゴロイドとみなされている。しかし変異も大きく,パラオ諸島とヤップ島の住民は黒色,縮毛ないし波状毛,広鼻などの特徴から,メラネシア人(オセアニック・ニグロイド)に近似する。言語も地域による差はあるが,いずれもアウストロネシア語族に属する。…
※「ヤップ島」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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