貝貨(読み)ばいか

精選版 日本国語大辞典 「貝貨」の意味・読み・例文・類語

ばい‐か ‥クヮ【貝貨】

〘名〙 貝殻製の貨幣。古代中国の殷・周代に普及し、交換媒介の役割の他、装飾品としても用いられた。子安貝が多く用いられたが、石・骨・銅などで貝を模したものもある。南太平洋諸島アフリカなどの諸民族の間でも財物として使用されている。〔漢書‐食貨志下〕

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デジタル大辞泉 「貝貨」の意味・読み・例文・類語

ばい‐か〔‐クワ〕【貝貨】

貝殻製の貨幣。古代中国では、刀銭布銭の流通前にコヤスガイが貨幣として用いられたと推定されている。また、西アフリカオセアニアなどでは社会的関係や地位を象徴する宝物・贈答品として用いられている。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「貝貨」の意味・わかりやすい解説

貝貨
ばいか

貝製の交換用貴重品。オセアニア地域、とくにメラネシアとニューギニアにおいて、商品取引交換の手段としての意味をはるかに超え、社会的交換手段として生き生きと交換されている。貴重品としての貝貨は、ある社会関係(結婚、秘密結社への入社、集団間の政治同盟)を生み出すために、また、社会諸関係のなかの不和を解消(祖先への寄進、殺人侮辱に対する償いによって)するために、そして、上位の社会的地位を創出ポトラッチ的な消費によって、またビッグマンや首長が蓄積し再分配することによって)したり、象徴化したりするために、見せびらかしたり、贈与したり、再分配したりする貴重品ということができる。代表的なものをあげれば、ロッセル島の赤貝の首飾り、トロブリアンド島などのクラ交換に使用される首飾りと腕輪、ソロモン諸島の首飾り、ヤップ島の真珠貝貨などである。ニューギニア北方の島々(トロブリアンド島、ドブ島など)の間にみられるクラ交易環の中心的贈答品は、非実用的で象徴的価値をもつ赤貝製の首飾りと白貝製の腕輪である。これらの貴重品は生活必需品でもなく、装飾品としても実用には供されない。ヨーロッパにおいて例えれば、王位継承を象徴する王冠宝石のようなものと説明されている。北米先住民のイロコイ人、アルゴンキン人の社会でも貝製数珠(じゅず)玉を多数紐(ひも)に通した貝貨が知られており、西アフリカでも「カウリ」とよばれる貝貨が流通している。

 なお、中国では布銭、刀銭などの流通以前にコヤスガイ(子安貝)が貨幣として流通したと考えられ、買、財など経済に関係する字がしばしば「貝」の字を伴っている。

牛島 巖]

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改訂新版 世界大百科事典 「貝貨」の意味・わかりやすい解説

貝貨 (ばいか)

貝殻製の貨幣。貝貨はオセアニア地域,とくにメラネシアではかりしれないほどの重要性をもち,商品交換の手段としての意味をはるかに超えた社会的交換手段として機能している。このような貴重品としての貝貨は,(1)ある社会関係,例えば結婚,秘密結社への入信,部族間の政治同盟を生みだすために,(2)社会関係のなかの不和を解消するために,例えば祖先への寄進として,あるいは殺人や侮辱に対する償いとして,(3)上位の社会的地位を創出したり象徴化したりするために,例えばポトラッチの贈与物として,あるいは重要人物,首長,王が蓄積し再分配する奢侈(しやし)品として,みせびらかしたり,贈ったり,再分配したりする物品にほかならない。ロッセル島の赤貝製首飾,トロブリアンド諸島で行われるクラ価値物としての赤貝製首飾と白貝製腕輪,ソロモン諸島のカキの貝殻製首飾,ヤップ島の真珠貝貨などオセアニアの島々で広く見られ,北アメリカのイロコイ諸族,アルゴンキン諸族でも貝製数珠玉を多数紐に通した貝貨が知られている。
タカラガイ
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普及版 字通 「貝貨」の読み・字形・画数・意味

【貝貨】ばいか(くわ)

貝の貨幣。〔漢書、食貨志下〕(王)金・銀・龜・貝・錢・布の品を作る。~大貝四寸以上、二枚を一と爲す。直(あたひ)二百一十六。壯貝三寸六以上、二枚を一と爲す。直五十。~是れを貝五品と爲す。

字通「貝」の項目を見る

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「貝貨」の意味・わかりやすい解説

貝貨
かいか

小規模な社会で用いられる最も一般的な貨幣で,貝殻を材料としてつくられている。用いられる貝殻の種類は一定していないが,タカラガイが多く用いられる。自然のままの場合もあるが,多くの場合なんらかの加工がなされている。貝貨で有名な地域はメラネシアである。インド洋のモルジブ諸島や東アフリカのマフィア島がその起源とされており,アフリカを中心に現在でも広く用いられている。中国でも古代に使用されたところがあったが,すぐ金属製の貨幣に変った。また,デンタリウム・エドゥリスという貝 (ツノガイの一種) は,アラスカの一部で用いられ,古くはアメリカインディアンも使用した。メラネシアでは,ディワルラとかタンブの名で知られるナッサ貝貨がある。これは製作に特別の技術を必要としている。これらとは別の形式の貝貨として,加工された何千もの貝の円板を紐に通して,一つにまとめたものがある。カリフォルニアインディアンやソロモン諸島,バンスク諸島,ガゼール半島,ブーゲンビル島,トラック島などでみられる。またメラネシアなどでは,貝殻でつくられた腕輪が貨幣として利用されている。こうした貝貨は単に貨幣であるばかりでなく,地位や権力の象徴として,装飾品として,さらに儀礼的交換の対象としても使用される。

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百科事典マイペディア 「貝貨」の意味・わかりやすい解説

貝貨【ばいか】

貝殻で作られた貨幣。アジア,アフリカ,アメリカなどで用いられ,タカラガイが多く使用された。メラネシアのクラにおける儀礼的な使用は有名。中国では,殷周時代に流通,その形を模した石・骨・貝・銅製の【ほう】貝(ほうばい)も作られた。
→関連項目ヤップ[島]

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旺文社世界史事典 三訂版 「貝貨」の解説

貝貨
ばいか

貝殻で作った貨幣の総称
先史時代から,アジア・アフリカ・アメリカ大陸・太平洋諸島で用いられた。中国では子安 (こやす) 貝が古くから珍重され,殷 (いん) ・周代には貨幣として通用した。骨・石・青銅でその形をまねた仿具 (ほうばい) もあった。現在でもメラネシア地域の先住民の間で一部通用している。

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世界大百科事典(旧版)内の貝貨の言及

【貝】より

…クレオパトラの真珠は有名であるが,世界最大の真珠は長さ50.8mmのヨウナシ型の〈ホープの真珠〉で,日本最大のものは御木本幸吉がアワビから得た長径24mm,短径19mmの真珠である。
[貝貨]
 タカラガイ類は特殊な形をしているが,このうち中国では古代にキイロダカラガイの殻が貨幣に使用され,殷墟(いんきよ)から出土している。しかし,インド,アフリカではもっと後世に及び,太平洋諸島,とくにニューギニアでは最近まで使用されていた。…

※「貝貨」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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