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ヤムシ

百科事典マイペディアの解説

ヤムシ

毛顎(もうがく)動物の総称。体は細長く1あるいは2対の側びれと尾びれがあり,矢のようにすばやく直進する。ほぼ透明。体長はふつう1〜4cm,大きいものでは10cmになる。
→関連項目毛顎動物

出典 株式会社日立ソリューションズ・クリエイト百科事典マイペディアについて 情報

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

ヤムシ
やむし / 矢虫
arrow worm

毛顎(もうがく)動物に属する種類の別名。体は細長く、胴部に左右に広がるひれをもち、矢のように直進することからこの名がついた。また、サジッタともよばれるが、これは学名(属名)Sagittaからきている。すべて海産で、大部分は浮遊性であるが、若干の底生種もある。一年中、世界の海洋に普遍的に出現し、橈脚(どうきゃく)類に次いで多い動物プランクトンの一つである。海の表層から深層まで分布し、種により垂直的にすみ分けている。表層種の体長は3センチメートル以下であるが、中層種や深層種には4~6センチメートルの個体も生息している。また、橈脚類、オキアミ類、エビ類などと同様に、多くは昼夜による垂直移動を行う。普通、体は無色透明ないし乳白色である。しかし、中層や深層からは腸管だけが、あるいは腸管、頭部、ひれが橙朱(とうしゅ)色を呈するヤムシ(メクラヤムシ、シンカイアカヤムシ)が採集されることがある。この色素はカロチノイドであり、ヤムシ自身によって生合成される。肉食性であり、おもに浮遊性橈脚類を摂食する二次消費者である。さらにヤムシはイカナゴ、カタクチイワシなどの沿岸魚類の主要な餌(えさ)となるほか、マサバ、マイワシ、サンマなどの浮魚や底魚であるマナガツオ、キグチ、スケトウダラなどの餌となる。また、キタヤムシ、フクラヤムシ、エンガンヤムシなどは、限られた海域に生息するため、水塊の指標種として利用される。[永澤祥子]

形態

ヤムシの体は頭部、体幹部、尾部の三つからなる。体側には1~2対のひれ、尾部末端には尾びれがある。体とひれの表面には感覚器官である触毛斑(しょくもうはん)が多数分布している。触毛斑は多くの繊毛からなり、繊毛が体軸に平行ないし垂直に配列する2型がある。孵化(ふか)直後の仔虫(しちゅう)も触毛斑をもっている。頭部背面には1対の目がある。目は黒い色素を有し、その形態は星状(フクラヤムシ)、E字状(エンガンヤムシ)、ト字状(ヒメヤムシ)の三つに大別できる。眼色素の形態や大きさは種により異なる。表層種の目は大きいのに対し、中層種や深層種の目は小さく、眼色素は微小であるかまったくなく(メクラヤムシ)、退化する傾向がある。頭部腹面の中央に口があり、その前側方には1~2対の歯列がある。口からすこし離れた左右に10本前後の顎毛が並んでいる。顎毛はキチン質でできており、鋸歯(きょし)を有する種もある。顎毛で餌を捕食する。腸管は体幹の中央をまっすぐに走り、その末端は尾部横隔膜の直前の腹面で肛門(こうもん)となっている。腸管と体壁の間には広い体腔(たいこう)がある。体腔はときに寄生虫で満たされていることがある。表層種ではこの体腔に多数の繊毛虫類が寄生していたり、吸虫類の幼生であるメタセルカリア1個体がしばしば寄生している。また、腸管には晩生胞子虫類のグレガリナが多数、あるいは吸虫類のメタセルカリアが2個体ないし数個体寄生することも知られている。[永澤祥子]

食性

ヤムシは運動する動物、とくに橈脚類を顎毛でとらえ、かみ砕かずにまる飲みする。餌を追いかけて捕まえるのではなく、餌を前方から襲ってとらえる。したがってヤムシの腸管内では橈脚類の頭は肛門のほうに向いているのが観察される。表層種の摂餌(せつじ)から消化までの観察によれば、摂食された餌は腸管内で膜に包まれ、腸管の後方へ移動し、10分足らずで腸管の最後部に達し、そこで消化、吸収される。餌が捕食、消化され、糞(ふん)が肛門から排出されるまでにおよそ2時間かかる。ヤムシは共食いをすることもあり、小形のヤムシは1時間足らずで、大形のヤムシは3~5時間かかって消化される。普通、ヤムシは一度に1個の橈脚類を摂食し、排出がすむまで新たに摂餌しないが、餌が腸管内にまだあるのに続いて2個目、さらに3個目の餌を摂食し、数個体の橈脚類が腸管内を占めることもある。このような摂餌行動をするヤムシは海洋で採集した標本のなかにもみいだせる。ヤムシの摂餌には日周のリズムがあり、ヤムシは昼よりも夜に活発な摂餌を行う。[永澤祥子]

生殖

ヤムシは雌雄同体であり、雄性先熟で貯精嚢(ちょせいのう)の充満、精包の放出は周期的に繰り返される。成熟した2個体のヤムシは、一見、共食いをしているかのように頭を寄せ合い、激しく泳いだのち離れることがある。これは交尾行動であり、両者の体やひれには精包がついている。このように精包を付着するヤムシは、夜間のごく限られた時間にのみ採集される。その多くは1個の精包をつけているが、なかには3~4個の精包を付着する個体もいる。ヤムシは、普通、他家受精であるが、自家受精を行うこともある。受精の様式はすべての種に共通であるのに対し、産卵の様式は表層種と中層種や深層種の間に相違がある。表層種は受精卵を夜明けまでの時間帯に雌性開口から海水中に放出する。受精卵は海水中を浮遊する間に発生が進み、孵化して1ミリメートルに満たない仔虫になる。ヤムシは変態をしないで成長する動物であり、子供と親の間に形態上の著しい相違はない。中層種や深層種は複数の受精卵を一度に放出する。卵は寒天状の卵嚢に包まれ、雌性開口付近のひれに付着する。受精卵の発生は卵嚢内で進み、仔虫になると卵嚢を破り始めて母体を離れ、海中を浮遊する。[永澤祥子]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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