ヨルダーンス(その他表記)Jacob Jordaens

改訂新版 世界大百科事典 「ヨルダーンス」の意味・わかりやすい解説

ヨルダーンス
Jacob Jordaens
生没年:1593-1678

フランドル画家アントウェルペンアントワープ)に生まれ,かつてルーベンスの師でもあったファン・ノールトAdam van Noortに学び,1615年に同地の画家組合に加入。初期作品には,1610年代のルーベンスの彫刻的人体把握の影響と,ルーベンスらイタリア帰りの画家を介して知ったカラバッジョ風の鮮烈な明暗効果が認められる。ただし人体造形は,彼らの古典的規矩をはずれた生々しいものである。前景一面に形態を詰め込み,奥行空間をほとんど示さないのもとくに初期に著しい特色で,この装飾的傾向は生涯に数多く手がけたタピスリー意匠に生かされている。手本と仰ぎ,30年代には協力もしているルーベンスの様式の変化に伴い,ヨルダーンスの様式も柔軟な筆触と豊かな色彩を生かした絵画的傾向を強める。宗教画神話画,肖像画に加えて,郷土の諺や習俗に取材した風俗画大作を描くようになるのも40年前後の円熟期の特徴で,イタリアに行かずフランドルの土着的・庶民的活力拠り所とした彼の個性は,風俗画に最も顕著である。ルーベンスとファン・デイクの没後30余年,フランドル随一の画家としてオランダ総督未亡人のハーグの離宮装飾(1652)ほか,外国の宮廷からの注文を含め多くの神話画,寓意画を描いたが,その資質からして必ずしも成功していない。なお,50年ころカルバン派に改宗した後も依然宗教画を制作しているが,没したアントウェルペンではなくオランダ国境を越えたピュッテPutteの改革派墓地に埋葬された。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヨルダーンス」の意味・わかりやすい解説

ヨルダーンス
Jordaens, Jacob

[生]1593.5.20. 〈洗礼〉アントウェルペン
[没]1678.10.18. アントウェルペン
フランドルの画家。ペーテル・パウル・ルーベンスの師であったアダム・ファン・ノールトに師事し,同時にルーベンスから強い影響を受けた。1645年カルバン派(→カルバン主義)のプロテスタントとなったが,ローマ・カトリック教会の祭壇画を多く制作。また数多くの風俗画を描き,神話や寓話もしばしば風俗画的に表現した。ルーベンスの死後,彼の後継者としての名声を得て多くの弟子を擁し,当時の画家たちの協力を得て多数の絵画を制作。主要作品『画家の家族』(1622~23頃,マドリード,プラド美術館),『豊饒』(1625頃,ベルギー王立美術館),『王の酒宴』(1638頃,ベルギー王立美術館),『プロメテウス』(1640~45,ケルン,ワルラフ=リヒアルツ美術館)。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヨルダーンス」の意味・わかりやすい解説

ヨルダーンス
よるだーんす
Jacob Jordaens
(1593―1678)

フランドルの画家。アントウェルペン(アントワープ)に生まれ、同地に没。1607年出生地の画家組合にノールトAdam van Noort(1562―1641)の弟子として記録されている。15年に独立、翌年ノールトの長女と結婚、21年にはアントウェルペン画家組合長に選ばれた。ルーベンスの影響を強く受け、ファン・ダイクに次いで17世紀フランドルの第三の画家に数えられる。彼の才能は宗教画、歴史・神話画、寓意(ぐうい)画、装飾画など多方面にわたって発揮されたが、本質的には当時の市民的な基盤にたつもので、市民の日常生活を描いた作品に秀作が多い。神話や古典に取材した作品にも現世的・風俗的な要素がしばしばうかがわれる。代表作に『芸術家とその家族』(マドリード、プラド美術館)、『農夫とサテュロス』(カッセル国立絵画館)、『パンとスフィンクス』(ブリュッセル王立美術館)など。

[野村太郎]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

百科事典マイペディア 「ヨルダーンス」の意味・わかりやすい解説

ヨルダーンス

フランドルの画家。アントウェルペン生れ。一時ルーベンスの工房で働き,その影響を大きく受けた。練達した技巧とカラバッジョ風の明暗法により,多くの題材をこなしたが,その真価はフランドル的精神の横溢する風俗画によく現れている。代表作に《サテュロスと農民》(1620年―1621年,ブリュッセル,ベルギー王立美術館蔵),《豆の王様の祝宴》(1640年―1645年ころ,ウィーン,美術史博物館蔵)などがある。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

世界大百科事典(旧版)内のヨルダーンスの言及

【フランドル美術】より

…構想画の優位もルーベンス個人に負うところが少なくないし,彼が肖像画,風景画,風俗画をも手がけ,風景画家や静物画家との共同制作も行っていることは,その様式の支配力をいっそう強固なものとした。ルーベンスに次ぐ存在は,どちらも一時期ルーベンスの協力者であったA.ファン・デイクJ.ヨルダーンスである。前者はとくに洗練された貴族的肖像画をもって名を成し,イギリス宮廷に仕えて同国美術の展開に多大な影響を与えた。…

※「ヨルダーンス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android