ラジオで放送されるドラマ形式の番組。英語では,初期のころにはradio dramaとも呼ばれていたが,今日ではそれはほとんど用いられず,むしろradio play(ラジオ・プレー)そのほかの言い方が一般的になっている。また日本ではこれらの訳語として,〈放送劇〉という言い方もときに使われているが,一般には〈ラジオドラマ〉と呼ばれることが多い。ラジオドラマは聴覚だけに頼るドラマ番組であり,ラジオがイギリスで誕生した1923年に,番組の一種として生まれた。初期は舞台用戯曲がそのまま放送されていたが,24年,初のラジオのために書かれた本格作品が放送された。それは,リチャード・ヒューズRichard Hughes作《危険Danger》であり,日本では翌年の大正14年8月13日に翻案・放送された(邦題は《炭坑の中》)。このラジオドラマは,舞台劇でも映画でも明確に現すことのできない炭坑内の暗黒,爆発や水の噴出する音などを生きた実感として描き出すことに成功しており,これによってラジオドラマは,ラジオの特性を生かしてつくりあげられる〈音の世界〉の新しい劇芸術として,その地位を確立させた。
日本放送協会(NHK)は,大正末期に当時の一流作家12人にラジオドラマ作品の執筆を委嘱,久米正雄だけが未執筆に終わったが,菊池寛,久保田万太郎,里見弴,岸田国士,吉井勇,小山内薫,山本有三などの作品はすべて当時の一流雑誌に掲載され,その後のラジオドラマの発達に貢献した。一方,このころから毎年のようにラジオドラマの懸賞募集が行われ,何人かの有能な新人が輩出する。劇作家の真船豊,森本薫などがまず活躍しだし,三好十郎,八木隆一郎,北条秀司,伊馬春部(いまはるべ)(当時は伊馬鵜平)などが,1930年代の半ば以降にそれぞれ個性的な作品を書いた。また,意欲的な演出をして,ラジオドラマの新形式を生み出した和田精の功績も忘れることができない。
第2次大戦後,日本のラジオドラマは二つの方向をたどる。一つはアメリカの商業放送に深く影響された連続放送劇(菊田一夫作《鐘の鳴る丘》《君の名は》),もう一つは伴奏音楽と音響効果とを重視した放送劇(NHK〈ラジオ実験室〉〈ラジオ小劇場〉)である。1951年(昭和26)民放ラジオが出現すると,ラジオドラマは大いに活況をみせ,NHK,民放ともに数多くの佳作を生み出したが,昭和30年代に入ってからの〈テレビ時代〉を迎えると,テレビドラマの攻勢にあって,いっきょに停滞し衰退してしまった。しかし,ラジオドラマの灯を消さぬように努める制作者もおり,FM放送の隆盛などもあって,近年,数は少ないものの優れた作品が生まれ出ている。
執筆者:志賀 信夫
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