劇作家、演出家。明治41年3月1日横浜生まれ。孤児同様に他人の手で育てられ、丁稚(でっち)、小僧生活を経たすえ、サトウ・ハチロー門下として浅草の軽演劇一座に加入、1930年(昭和5)玉木座の『阿呆(あほう)疑士迷々伝』で注目された。その後、榎本(えのもと)健一、続いて古川緑波(ろっぱ)のための喜劇作品を書き、昭和初期の軽演劇時代の一翼を担った。当時の代表作に『花咲く港』(1943)がある。戦後はNHKのラジオドラマで活躍、『鐘の鳴る丘』(1947~50)、『君の名は』(1952~54)を書いた。55年東宝の演劇担当重役となり、劇作、演出と並行して演劇製作を続け、『がめつい奴』『放浪記』などの名舞台を生み、多くの俳優を育て上げた。63年(昭和38)にはブロードウェー・ミュージカル『マイ・フェア・レディ』を翻訳上演、日本の演劇史に一ページを加えた。庶民の哀歓を平明なスタイルで描き、幅広い層から支持された劇作家である。昭和48年4月4日死去。
[水落 潔]
『『菊田一夫戯曲選集』全3巻(1965~67・演劇出版社)』
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劇作家,ラジオ・ドラマ作家。横浜生れ。本名数男。生後まもなく両親が離婚,菊田吉三郎の養子となるが,台北,大阪,東京であらゆる辛酸をなめる。サトウハチローの知遇を得て詩作を学び,〈笑いの王国〉〈古川緑波(ろつぱ)一座〉にオペレッタを提供。《道修(どしよう)町》《花咲く港》は戦前の代表作である。1955年小林一三に招かれ東宝取締役に就任,製作,脚本,演出を担当,《がめつい奴》(1959初演,菊池寛賞受賞),《がしんたれ》《雲の上団五郎一座》が大ヒット。《放浪記》(1961)を皮切りに東宝文芸路線を定着させ,《マイ・フェア・レディ》《風と共に去りぬ》などの和製ミュージカルに新風を送る。浮浪児の更生をテーマとしたNHK連続放送劇《鐘の鳴る丘》(1947-50)のヒットも《君の名は》とともに戦後の大衆文化史上忘れてはならない。
執筆者:今村 忠純
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昭和期の劇作家,演劇プロデューサー
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…その一党が中心となって33年に浅草常盤座で〈笑いの王国〉が旗揚げした。役者として生駒雷遊(いこまらいゆう)(1895‐1964),山野一郎,古川緑波(ロッパ),大辻司郎(1896‐1952),渡辺篤(1896‐1977),関時男,清川虹子ら,作家陣に菊田一夫,大町竜夫,貴島研二,山下三郎らが加わった。一夜づけの脚本による,いわゆる〈アチャラカ芝居〉なる言葉はここから生まれた。…
…歌舞伎では,35年の有楽座開場に際して,松竹俳優の中から坂東簑助(のちの8世三津五郎),中村もしほ(のちの17世勘三郎),市川寿美蔵(のちの3世寿海),市川高麗蔵(のちの11世団十郎)らを引き抜いて〈東宝劇団〉と命名し,それまで歌舞伎座が一等席8~9円していた入場料を2円でふたをあけるなどおおいに物議をかもしたが,歌舞伎公演に不慣れのためとかく興行成績がふるわず,わずか3年足らずのうちに消滅した。一方,浅草の作家であった菊田一夫を迎えての古川緑波一座の喜劇は,それまでに見られなかった新しい東京喜劇のジャンルを開拓し,《ガラマサどん》《花咲く港》などの作品を生んで人気が高まった。また映画の製作配給にも手を染め,37年には,前年に発足した東宝映画配給株式会社とPCL映画製作所,JOスタジオ,写真化学研究所が合併して,東宝映画株式会社が設立された。…
…アメリカの場合と違って,創作ミュージカルからヒット・ソングが生まれた例がほとんどないことを考えてみても,これが日本文化の中で十分に定着していないことは確かである。 これに対して輸入ミュージカルは,東宝の菊田一夫による《マイ・フェア・レディ》の上演(1963)を最初とする。その後,演技の水準はかなり向上してきた。…
※「菊田一夫」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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