リウマチ性多発筋痛症(読み)リウマチせいたはつきんつうしょう(英語表記)Polymyalgia rheumatica

六訂版 家庭医学大全科 「リウマチ性多発筋痛症」の解説

リウマチ性多発筋痛症
リウマチせいたはつきんつうしょう
Polymyalgia rheumatica
(膠原病と原因不明の全身疾患)

どんな病気か

 リウマチ性多発筋痛症は、リウマチという名前が使われていますが、関節リウマチとは違う病気です。一般に50歳以上、とくに60歳以上の高齢者に起こる原因不明の病気で、体幹に近い部分の筋肉の痛みやこわばりが主な症状の慢性炎症性の疾患です。

 本症を確定できる特定の診断法はなく、関節リウマチとか不明熱などと診断されて、いくつかの医療機関を転々とすることも少なくありません。しかし、この病気はいったん診断がつけば、多くの場合はステロイド治療で十分にコントロールできます。

原因は何か

 真の原因はわかっていませんが、20%前後の患者さんには側頭動脈炎(そくとうどうみゃくえん)巨細胞性(きょさいぼうせい)動脈炎)という膠原病(こうげんびょう)疾患を合併することが知られています。しかし、欧米に比べて日本では側頭動脈炎を合併する頻度は少ないので、この病気の全体としての性質人種などによって若干違うようです。また、こうした合併症の存在から、リウマチ性多発筋痛症や膠原病疾患には共通する原因があるのかもしれません。

症状の現れ方

 前兆になるような感染症などは、とくに知られていません。体幹に近い部分、すなわち肩から上腕、(くび)臀部(でんぶ)から大腿などの筋肉の痛みやこわばりから始まり、それが2週間以上続くのが特徴です。

 こうした筋肉の症状以外では、発熱(多くは37℃台の微熱)、全身のだるさ、体重減少などの全身症状と、関節の痛みを伴います。ただし、関節がはれ上がるほどになることは少ないといわれています。

 症状は、急に始まることが多いのですが、治療しないとそのまま続くため、数カ月にわたって徐々に進んだようにみえることもあります。

検査と診断

 この病気の診断を確定する特有な検査はありません。体の炎症症状を示す赤沈検査や血清CRP濃度が高値となり、そのほかに軽い赤血球数の減少と、白血球数および血小板数の増加がみられます。一方、筋痛があるにもかかわらず、多発性筋炎にみられるような筋肉由来の血清酵素(CKなど)の増加はみられません。また、リウマトイド因子抗核抗体(こうかくこうたい)などの免疫異常は、通常認められません。

 特徴となる症状や検査所見などを組み合わせた診断基準が診断の助けになります。いくつかの診断基準が提唱されていますが、いずれも高齢者であることが第一条件です。なお高齢者の定義については、50歳以上とするものから70歳以上までまちまちですが、60歳以上とするのが一般的です。ただし、実際には、50歳前後でも特徴的な症状がある場合は、この病気と診断されます。

 そのほかの項目としては、筋症状、検査所見、全身症状など、それぞれの特徴を組み合わせて診断します。なお、側頭動脈炎を合併する場合は、頭痛や側頭動脈の拡張および圧痛があり、まれに突然失明に至る例もあります。この合併症の診断には、血管造影検査や組織を一部取る病理検査生検)が必要なことがあります。

治療の方法

 ステロイド治療がよく効きます。側頭動脈炎を合併する例では、プレドニゾロンで1日30㎎以上の服用が必要になりますが、合併しない例では通常1日10~20㎎ほどが使われます。

 治療開始後1~2週間以内に改善し始める例も多く、改善がみられたら、少しずつ減量します。一定の減量が得られたあとも、1年以上のステロイド治療が必要な例が多く、副作用である骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の対策が必須になります。

 一般に予後は悪くない病気ですが、実はステロイド療法がどの程度長期予後を改善するかについては十分な臨床成績はありません。また、十分に有効性が確認された他の治療法はありませんが、ステロイド療法の効きめが悪い症例では、時に関節リウマチに使われるメトトレキサートのような免疫抑制薬が使われることがあります。

病気に気づいたらどうする

 正しく診断されればコントロールが可能な病気なので、この病気が疑われたら、なるべく早くリウマチ専門医の診察を受けることが最も大切です。

関連項目

 多発性筋炎、皮膚筋炎側頭動脈炎関節リウマチ

川合 眞一

リウマチ性多発筋痛症
リウマチせいたはつきんつうしょう
Polymyalgia rheumatica
(お年寄りの病気)

高齢者での特殊事情

 主に50歳以上、とくに70代に好発し、男女比は1対2とやや女性に多く発症します。四肢近位部と体幹、とくに頸部(けいぶ)、肩、腰部のこわばりと痛みを特徴とし、多くは対称性、多発性です。痛みは自発痛で、圧迫や運動によってそれほど変化しないのが特徴です。微熱、全身倦怠感(けんたいかん)、食欲不振、体重減少などの全身症状を伴うこともあります。

 検査は赤血球沈降速度(血沈)亢進、C反応性蛋白(CRP)上昇、フィブリノゲン上昇などの炎症所見が主体で、特異的な所見はありません。筋力低下、筋萎縮(きんいしゅく)は認められません。

治療とケアのポイント

 治療は非ステロイド性消炎鎮痛薬のみで改善する場合もあるので、まずこれを試みます。効果が十分でない時は、少量のステロイド薬を使用すればすみやかに症状の改善がみられます。

 しばしば側頭動脈炎を合併し、この2つの疾患は病因的に密接に関係していると考えられていますが、原因は明らかではありません。

 また、基礎に悪性腫瘍がひそんでいることがあり、とくにステロイド薬に対する反応が悪い場合には、注意が必要です。

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「リウマチ性多発筋痛症」の解説

りうまちせいたはつきんつうしょう【リウマチ性多発筋痛症 Polymyalgia Rheumatica】

[どんな病気か]
 高齢者によくみられる、肩、腰、四肢(しし)(手足)の近位筋(きんいきん)(体幹に近い筋肉)の痛みとこわばりを特徴とする病気です。
 肩などの大きな関節が痛むこともあります。また、微熱や、体重減少をともなうこともあります。
 患者さんの数%に失明をきたす側頭動脈炎(そくとうどうみゃくえん)(コラム「側頭動脈炎」)の合併がみられます。
 側頭動脈は、側頭部から目や顔面にのびる動脈です。ここに炎症が生じると、腫(は)れた動脈がウネウネと浮いてみえ、押さえると痛みます。高熱や頭痛(ずつう)のほか、目がかすみ、ものが二重にみえ、失明したりします。
 血管炎の類縁疾患(るいえんしっかん)と考えられていますが、原因はまだわかっていません。
[検査と診断]
 血液を検査すると、ふつうの炎症でもおこる赤血球沈降速度(せっけっきゅうちんこうそくど)(赤沈(せきちん))の亢進(こうしん)などがみられます。
 しかし、リウマトイド(リウマチ)因子は陰性で、筋肉の傷害があれば血中に出てくるはずの酵素(こうそ)の値の上昇もみられません。
 このリウマチ性多発筋痛症にしかみられないという検査結果がないため、診断では、除外診断といって、悪性腫瘍(あくせいしゅよう)にともなう炎症や筋肉の痛みなど、類似した病気を一つひとつ除外していくことが重要です。
[治療]
 ステロイド(副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン)薬が、非常によく効きますが、まれに症状が再燃することもあります。
 少量のステロイド薬を使用しますが、この薬は、多くの場合、半年以上かけて量をゆっくりと減らしていくような使用のしかたをします。
 しかし、側頭動脈炎が生じた場合は、より大量のステロイド薬による治療が必要となります。

出典 小学館家庭医学館について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「リウマチ性多発筋痛症」の意味・わかりやすい解説

リウマチ性多発筋痛症
リウマチせいたはつきんつうしょう
polymyalgia rheumatica

高齢者のみに見られる頸 (けい) 部,肩,殿部の筋肉の疼痛 (とうつう) とこわばり感,微熱,倦怠感,体重減少などの全身症状を伴う疾患で,急激な発症をみることが多い。検査所見では,血沈の著明な高進や CRP (ヒト血清中にあって,肺炎双球菌菌体多糖類と反応する蛋白) などの急性期反応物質の著増,貧血が見られるが,リウマトイド因子,抗核抗体などは陰性である。小量のステロイド剤に劇的な効果を示し,症状は好転する。

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