赤血球沈降反応の略称で、赤沈ともいう。1918年スウェーデンのファーレウスRobin Sanno Fåhraeus(1888―1968)は、妊娠の早期診断法を探しているうちに、凝固を防止した血液を直立した試験管に入れて静置しておくと、妊娠した場合では、赤血球が非常に早く沈殿していくことをみいだした。その後、この現象は、妊娠に限らず、種々の疾患でもおこる非特異的な反応であることがわかり、赤血球沈降反応とよばれることになった。この反応は、後述するように、血漿(けっしょう)中における赤血球の「浮遊性の安定度」の尺度ともみることができる。
この赤血球沈降反応は、手軽に実施できるため、病院での臨床検査に広く用いられてきた。普通に行われるのはウェスターグレーンAlf Westergren(1891―1968)の方法で、凝固防止用として3.8%のクエン酸ナトリウム0.4ミリリットルを混合した血液2ミリリットルを、内径2.5ミリメートル、長さ300ミリメートルの試験管に吸い上げ、垂直に保持して、1時間後と2時間後における赤血球層の沈下の程度を読み取る。この試験管には0~200ミリリットルの目盛りがつけてあり、その基準値は、1時間で男子は0~6.5ミリリットル、女子では0~15ミリリットルである。一般に女子では男子より生理的な変動の幅が大きい。
血沈速度を左右する因子としては、まず貧血があげられる。貧血の場合は、赤血球数が少ないから、その沈下が他の血球との衝突によって妨げられることが少なく、血沈は促進する。次に関与するのが物理的な法則である。沈降する赤血球は、遅かれ早かれ貨幣が積み重なったような、集合した凝集現象aggregationをおこす(これを連銭形成rouleaux formationとよぶ)。一般に液体中を半径rの球体が沈降する場合、次のストークスの法則が成立する。
μは沈降速度、ηは液の粘度、ρ1およびρ2は球体と液体の密度、gは重力の加速度である。
この式から明らかなように、沈降速度は、沈下する固体の半径の2乗に比例するから、赤血球が連銭をつくり、大きな塊となると、もっとも有効に沈降速度が促進される。
多くの疾患に際してみられる赤血球沈降速度の増加は、この凝集の促進に由来している。この場合、沈降速度の促進した赤血球を分離し、生理的食塩水中に浮遊させると沈降速度は著しく遅くなる。すなわち、促進の原因は赤血球自体にあるのではなく、血漿中にあることが示唆されるわけである。この血漿中の促進因子としてもっとも注目されているのが血漿タンパク質である。血漿タンパク質は一定の電荷を帯びており、赤血球周囲を覆って、その浮遊性の安定度を維持していると考えられる。これらタンパク質のうち、線状タンパクで等電点のもっとも高いフィブリノゲンがいちばん血沈の促進度と関係が深く、ついでグロブリンとなる。一方、アルブミンは、血沈の促進とは負の相関関係にある。
[本田良行]
正確には赤血球沈降速度erythrocyte sedimentation rateといい,これを略して赤沈ともいう。血漿中に浮遊している赤血球が沈降する速度を測定することにより,病気の有無や病勢を判断する臨床検査法。診療や健康診断等で,最も簡単で基本的な検査方法の一つとして広く用いられている。その原理はまだ十分明らかではないが,次のように考えられている。すなわち,赤血球は表面に陰性荷電をもち互いに反発する傾向にあるが,種々の原因により血漿タンパク質のうち陽性荷電を有するグロブリン,フィブリノーゲン等が増加すると,また逆に陰性荷電を有するアルブミンが減少すると,赤血球表面の陰性荷電が弱まり,赤血球どうしの反発が減って凝集しやすくなる。凝集した赤血球が速く沈降するため血沈が促進すると考えられている。また,赤血球自体の数量的変化も血沈値に影響する。歴史的には,18世紀末より,炎症性疾患で血沈が促進する現象に気づかれていたが,20世紀に入りその診断的意義が認識され,種々の方法が考案された。現在は一般にウェスターグレン法Westergren's methodが国際標準法として用いられている。この方法は,2mlの注射器に3.8%クエン酸ナトリウム溶液(抗凝血剤)0.4mlを吸い,さらに血液1.6mlを採血して混和したのち,目盛付きの細長い管(沈降管)に吸いあげて垂直に立て静置する。赤血球は徐々に沈降し,管上部に血漿柱を生じる。この血漿柱の高さが血沈値(1目盛は1mm)で,これを1時間後に読みとる(1時間値)。30分値,2時間値も併用される。正常値は,1時間値で男2~10mm,女3~15mm。この生理的範囲より多い場合を血沈促進(亢進),少ない場合を遅延という。血沈亢進は,急性感染症・慢性感染症(結核など)・膠原(こうげん)病(慢性関節リウマチなど)・急性肝炎その他の炎症性疾患や,大きな外傷・心筋梗塞(こうそく)・癌など組織破壊を伴う疾患,ネフローゼ,高度の貧血等で認められる。また正常な妊娠(3ヵ月以後)でも血沈は促進する。一方,血沈遅延は,赤血球増多症,播種性血管内凝固症候群等で認められる。以上のように血沈の異常は種々の原因でみられる非特異的血液反応である。他の所見と併せて判断し,さらに特異的な検査に進み診断を確定するという手順になる。また,すでに診断が確定している場合は,臨床所見や他の検査所見の経過とともに,病勢・予後判定上重要な情報となる。
執筆者:多久和 典子
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